中小企業の採用戦略とは?採用課題を解決する実践的な進め方を解説|採用人事コンサルタント 大岩貴文

「求人を出しても応募が来ない」「採用できても定着しない」。そのたびに求人媒体を変えたり、広告費を増やしたりしても、採用の土台が曖昧なままでは同じ課題を繰り返します。

中小企業の採用戦略で最初に決めるのは、求人媒体ではありません。経営計画から必要な人材を明らかにし、採用する理由、人物像、伝える魅力、採用方法、選考、入社後の受け入れ、改善指標までを一つにつなげます。

当社は、求人メディアで約10年、累計800社を超える企業の採用現場に関わってきました。現在は中小企業診断士として、採用と経営を一体で支援しています。本記事では、その経験と公開済みの支援事例を基に、中小企業が採用戦略を立てる7つの手順を解説します。

中小企業の採用戦略とは、経営目標から採用活動を逆算すること

中小企業の採用戦略とは、経営目標を実現するために「なぜ、どの仕事を、誰に任せるのか」を決め、その人材と出会い、選ばれ、入社後に活躍してもらうまでの方針を設計することです。

採用戦略、採用計画、採用手法は似ていますが、役割が異なります。

項目 決めること
採用戦略 なぜ採用し、誰に何を伝え、どう選ばれるか 技術承継のため、未経験から育成できる若手を採用する
採用計画 誰が、いつまでに、いくらで実行するか 10月までに製造職2名、担当者と月別予定を決める
採用手法 どこで候補者と接点を持つか ハローワーク、求人検索エンジン、学校訪問、採用サイト

媒体を先に決めると、届いてほしい相手や伝える内容が曖昧になります。実務上は、戦略、計画、手法の順で考えた方が、施策の選び直しを減らせます。

中小企業に採用戦略が必要な理由

中小企業は、採用担当者、予算、知名度に限りがあります。そのため、大企業と同じ媒体へ同じような求人を出すだけでは、自社の仕事や魅力が埋もれやすくなります。

2025年版小規模企業白書では、人材が不足している小規模事業者の約6割が、直近3年間の採用について「予定人数には未達」と回答しています。また、競合との差別化を意識している事業者の方が、予定人数を採用できた割合が高いことも示されています。

採用の問題は、広報だけで解決するとは限りません。厚生労働省の中小企業の採用・定着事例集も、取り組みを「事業戦略の転換」「業務の見直し」「働く環境の整備」「採用活動の工夫・多様化」の4つに整理しています。

当社でも、採用相談では求人票だけでなく、人員構成、業務分担、利益計画、受け入れ体制まで確認します。採用できない原因が、募集方法ではなく、任せる仕事や条件、社内の判断基準にあることも多いためです。

中小企業の採用戦略を立てる7つのステップ

1.経営計画から採用目的を決める

最初に「なぜ今、その人材が必要なのか」を明確にします。欠員補充、事業拡大、技術承継、管理者育成では、採用する人材も期限も変わります。

次の項目を、経営者、配属先、採用担当者で確認します。

  • 今後1〜3年で伸ばしたい事業と縮小する事業
  • 人が足りないために止まっている受注や業務
  • 退職予定者、年齢構成、承継が必要な技術
  • 採用後、その人に任せたい仕事と期待する成果
  • 採用以外に、配置転換、業務改善、外注で対応できないか

株式会社タダノエステックの支援では、単なる欠員補充ではなく、20〜30代の次世代リーダー候補を採用する目的を整理しました。目的が定まったことで、人物像と採用メッセージ、社内の判断基準を一つにつなげられました。

2.募集する仕事を分解し、優先順位を決める

次に、漠然とした「人手不足」を、実際の募集単位へ分解します。一つの求人へ複数の仕事や条件を詰め込むと、誰のための募集なのかが伝わりにくくなります。

整理する項目 確認例
職種 製造、配送、営業、事務など、任せる仕事は何か
勤務地 本社、工場、現場、複数拠点のどこか
雇用形態 正社員、パート、短時間勤務など
採用人数・期限 何人を、いつまでに必要とするか
優先順位 採用できなければ事業への影響が大きい募集はどれか

すべてを一度に募集する必要はありません。採用できない場合の経営への影響と、採用難易度を比べ、優先する募集を決めます。

3.採用できる人数と予算を確認する

採用人数は、現場の要望だけで決めず、利益計画や人件費と照らし合わせます。採用後の給与だけでなく、社会保険料、採用費、教育時間、設備や車両なども含めて考える必要があります。

当社では、採用を検討するときに、売上総利益、人件費、労働分配率、損益分岐点などを確認します。ただし、適正な数値は業種や成長段階で異なります。比率だけで採用の可否を決めるのではなく、次の3つのケースを比べます。

  1. 採用しない場合に失う受注や生産能力
  2. 採用した場合に増える人件費と教育負担
  3. 業務改善、設備投資、外注、配置転換で補える範囲

この比較を行うと、「何人採るか」だけでなく、「どの利益水準なら採用を続けられるか」を判断しやすくなります。

4.採用ターゲットと選考基準を決める

採用ターゲットは、「若い人」「経験者」「良い人」のような抽象語ではなく、仕事との関係で決めます。

  • 入社時点で必須の経験・資格
  • 入社後に育成できる知識・技能
  • 実際に任せる業務と責任範囲
  • 仕事を進めるうえで必要な行動や考え方
  • 勤務条件と本人の希望が合うか

条件を増やしすぎると、採用可能性を自ら狭めます。「必須条件」と「あれば望ましい条件」を分け、選考で確認する項目まで決めておくことが重要です。

年齢や性別などで安易に人物像を固定せず、職務上必要な能力と行動を基準にします。経営者、現場、採用担当者が同じ基準を共有すれば、面接担当者による評価のばらつきも減らせます。

5.自社の魅力を、求職者に伝わる言葉へ変える

自社の魅力は、会社が伝えたいことを並べるだけでは届きません。採用したい人が仕事を選ぶ際に重視することと、自社が実際に提供できる環境を重ねて考えます。

例えば「アットホームな会社」では、働く姿を想像できません。「入社後3カ月は先輩と同行する」「社長へ改善案を直接提案できる」のように、事実と行動へ置き換えます。

三木鋼業株式会社の支援では、現場系・3Kのイメージが先行するなかで、採用目的と対象者、自社の強みを整理しました。求人票と採用ホームページ、応募導線を一貫させた結果、半年間で13件の応募があり、現場スタッフ2名と事務職1名の採用につながりました。

魅力を整理したら、求人票、採用サイト、説明会、SNS、面接で伝える内容が食い違っていないかも確認します。詳しい進め方は「採用ブランディングを成果につなげる6つの進め方」でも解説しています。

6.採用チャネルと選考方法を一緒に設計する

採用チャネルは、流行や知名度ではなく、採用ターゲットとの接点で選びます。

採用対象・状況 主な接点候補 設計時のポイント
地域の中途人材 ハローワーク、求人検索エンジン、採用サイト 仕事内容と勤務地、応募方法を具体化する
高校新卒 学校訪問、高卒求人票、職場見学 学校との関係づくりと年間日程を合わせる
転職潜在層 SNS、動画、社員紹介、リファラル すぐ応募を求めず、仕事理解の接点を作る
専門職・管理職 人材紹介、ダイレクトリクルーティング 採用要件と費用対効果を確認する

応募後の選考も同時に設計します。応募への返信が遅い、面接で会社説明が不足している、評価基準が担当者ごとに違うといった問題があれば、集客だけを増やしても採用にはつながりません。

東和機電工業株式会社の支援では、「応募して面接を受ける」方法だけに頼らず、スポットワーカーとして現場を体験できる接点を設計しました。約2カ月で約10名が現場を体験し、そのうち1名が長期採用につながっています。採用手法を増やすのではなく、仕事と候補者に合う入り口へ変えた事例です。

採用サイトを検討する場合は、「中小企業の採用サイト制作で整理すべき内容」も参考にしてください。面接の準備と評価は「面接官の心得7つ」で詳しく説明しています。

7.採用スケジュールとKPIを決め、定着まで改善する

最後に、担当者、期限、予算、確認指標を決めます。応募数だけで判断すると、どこに問題があるのか分かりません。

採用段階 確認する指標 主な見直し箇所
情報を届ける 求人表示数、採用ページ閲覧数 媒体、検索される職種名、発信内容
興味を持ってもらう 応募数、応募率 仕事内容、条件、写真、採用メッセージ
選考する 面接設定率、面接辞退率 返信速度、日程、事前案内
選ばれる 内定承諾率 面接での情報提供、条件、比較材料
定着・活躍する 入社後の定着状況、育成の進捗 受け入れ、教育、上司の関わり、業務設計

数字が悪い段階に応じて、改善箇所を変えます。表示が少ないなら媒体や職種名、表示はあるのに応募がないなら求人内容、面接辞退が多いなら応募後対応を見直します。

採用活動中は月単位で確認し、採用終了後には結果と原因を振り返ります。経営計画、人員構成、採用市場が変わった場合は、採用戦略そのものを見直します。

採用戦略を1枚にまとめる項目

採用戦略は、長い計画書にする必要はありません。まずは次の項目を1枚にまとめ、関係者で共有します。

項目 記入する内容
経営上の目的 採用によって実現したい事業・組織の状態
募集する仕事 職種、勤務地、雇用形態、任せる業務
人数と期限 何人を、いつまでに採用するか
採用余力 人件費、採用費、教育負担、必要な利益
採用ターゲット 必須条件、育成可能な条件、仕事上必要な行動
伝える魅力 対象者が重視することと、自社が提供できる事実
採用チャネル 候補者との接点と、その方法を選ぶ理由
選考・受け入れ 応募対応、面接、評価、入社前後の担当者
KPI 各段階で確認する数字と、見直す時期

一度で完成させるのではなく、採用活動の結果を見ながら更新する前提で使います。

中小企業の採用戦略で起きやすい4つの失敗

求人媒体を変えることから始める

人物像や伝える内容が曖昧なままでは、媒体を変えても同じ求人が別の場所に掲載されるだけです。先に採用目的と募集内容を整理します。

条件を増やしすぎる

現場の希望をすべて必須条件にすると、候補者がほとんどいなくなる場合があります。入社時に必要な条件と、入社後に育成できる条件を分けます。

応募数だけで成否を判断する

応募が増えても、面接や採用、定着につながらなければ課題は残ります。採用プロセスのどこで止まっているかを確認します。

採用担当者だけで進める

任せる仕事と受け入れ体制は、配属先が最もよく把握しています。経営者、現場、採用担当者の役割を決め、判断基準を共有します。

企業の状況によって採用戦略を調整する

専任の採用担当者がいない会社は、すべての施策へ手を広げず、最優先の職種を一つ決めます。担当者と確認日を決め、続けられる運用にすることが重要です。

製造、建設、物流など仕事内容が伝わりにくい企業は、文章だけで説明しきろうとせず、写真、動画、職場見学、仕事体験を組み合わせます。ただし、実際の職場と異なる見せ方はミスマッチの原因になります。

高校新卒採用は、一般の中途採用と日程や学校との連絡方法が異なります。年度の採用スケジュールから逆算して準備します。

急な欠員の場合でも、目先の補充だけで終わらせず、退職理由や業務分担を確認します。同じ原因が残れば、採用しても再び欠員が生じる可能性があります。

公開支援事例に共通すること

当社の公開支援事例では、最初から特定の求人媒体や制作物を提案していません。経営上の目的、募集する仕事、人物像、伝える魅力を整理した上で、企業ごとに必要な方法を選んでいます。

  • タダノエステック:次世代リーダー候補という採用目的から人物像とメッセージを設計
  • 三木鋼業:欠員対応型の採用を見直し、求人票、採用サイト、応募導線を一貫させた
  • 東和機電工業:仕事体験を入り口にし、応募と面接だけに頼らない採用プロセスへ変更
  • 有限会社カネクラ加工:人員構成と将来構想を棚卸しし、自社で継続できる採用導線を整備

成果の数字や採用手法だけをまねても、同じ結果になるとは限りません。自社の課題を特定し、実行できる順序へ落とし込むことが、採用戦略の役割です。

よくある質問

採用戦略と採用計画の違いは何ですか?

採用戦略は、経営目標から採用の目的、対象者、選ばれるための方針を決めるものです。採用計画は、その方針を担当者、期限、予算、行動予定へ落とし込んだものです。

専任の採用担当者がいなくても作れますか?

作れます。最初から詳細な計画書を作らず、優先する職種について、目的、人数、期限、人物像、伝える魅力、採用方法、担当者を1枚にまとめるところから始めます。

採用予算はいくら必要ですか?

一律には決められません。職種、地域、採用人数、緊急度、使用するサービスで変わります。広告費だけでなく、担当者の時間、制作費、紹介手数料、教育負担まで含めて比較します。

採用戦略はどのくらいの頻度で見直しますか?

採用活動中は、応募、面接、辞退の状況を月単位で確認します。事業計画、人員構成、採用条件が変わった場合は、年度途中でも戦略を見直した方がよいでしょう。

まとめ

中小企業の採用戦略は、求人媒体を選ぶ作業ではありません。経営計画から必要な人材を明らかにし、募集する仕事、採用余力、人物像、伝える魅力、採用方法、選考、受け入れ、KPIまでを一つにつなげるものです。

まずは、募集する仕事を職種、勤務地、雇用形態、ターゲットに分け、何から見直すべきか整理してください。媒体を増やす前に採用課題を切り分けることで、限られた時間と予算を優先度の高い施策へ使いやすくなります。

採用活動のどこから見直すべきか整理したい方へ

当社が支援先の多くで採用改善の最初に行ってきた「仕事の分解と整理」を、全12ページの無料ワーク資料にまとめています。

職種、勤務地、雇用形態、ターゲットを一枚に整理し、応募不足、費用対効果、定着などの課題を切り分けるための資料です。採用戦略全体が完成するものではありませんが、手当たり次第に求人を出す状態から抜け出し、次に取り組むことを決める第一歩として使えます。

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自社だけで採用目的や優先順位を整理しにくい場合は、「中小企業向け採用支援の内容と進め方」をご覧ください。採用戦略から求人票、採用サイト、選考、定着まで、企業の状況に合わせて支援範囲を決めています。

課題が明確になっていない段階でも、現状を整理するところからご相談いただけます。

ABOUT ME
採用人事コンサルタント 大岩貴文
求人広告の営業として10年間、中小企業の採用現場を見続けてきました。「採用の問題は、経営の問題」と確信し、中小企業診断士(経営コンサルタント唯一の国家資格)を取得。今は採用戦略・人材育成・経営改善を手がけるコンサルタントとして活動しています。「いい人が来ない」「採っても辞めてしまう」——そんなお悩み、ぜひご相談ください。経済産業省認定経営革新等支援機関 / 中小企業基盤整備機構経営アドバイザー