「人を採りたいけれど、給料を上げる余裕がない…」そう感じている経営者の方は少なくありません。採用市場が厳しくなる中、企業には賃上げという選択が求められていますが、その原資をどう生み出すかが最大の壁です。
実は、採用がうまくいっている会社ほど、“価格転嫁”を上手に進めています。お客様へ交渉することはとてもハードルが高いことですが、実現できた時のメリットは大きいですね。
本記事では、中小企業診断士・採用コンサルタントの視点から、価格転嫁の基本、交渉のコツ、そして採用強化とのつながりを、実例を交えてわかりやすくお伝えします。
価格転嫁とは?基本のキホン

価格転嫁とは、仕入れ価格や人件費といったコストの上昇分を、自社の販売価格に反映させることです。たとえば、最低賃金が引き上げられた場合、その分を商品やサービスの価格に転嫁しなければ、利益が削られ、企業経営が苦しくなります。
特に中小企業では「価格は据え置きが当たり前」と思われがちですが、それでは持続的な経営が難しくなります。今、政府も「適切な価格転嫁」を呼びかけており、価格転嫁は避けて通れない経営課題になっています。
では、なぜ採用の話と価格転嫁が結びつくのでしょうか?
採用難と賃上げが企業にもたらすジレンマ

ここ数年で採用市場は大きく変化しました。求職者が職場を選ぶ目線は厳しくなり、人材確保には「賃上げ」がほぼ必須です。しかし、賃上げの原資がないまま無理をすると、経営を圧迫しかねません。
「人が足りない」「でも給料を上げる余裕がない」──このジレンマに直面している中小企業は非常に多いです。結果として待遇を据え置いたままでは応募が集まらず、採用難がさらに悪化するという悪循環に陥ります。
こうした状況で有効なのが「価格転嫁」という戦略です。
価格転嫁が採用活動を支える理由

価格転嫁によって得た追加の利益を人件費に回すことができれば、
- 賃上げ → 応募数増加
- 定着率向上 → 採用コスト削減
- 職場の魅力アップ → 求職者に選ばれやすく といった好循環を生み出せます。
「良い人材にきちんと投資する」姿勢は、社内にも外部にも伝わり、企業ブランドの強化にもつながります。
逆に価格転嫁ができないと、採用に必要な待遇改善ができず、慢性的な人手不足から抜け出せなくなります。
とはいえ、簡単に価格を上げられるわけではありません。では、どうすれば?
価格転嫁を成功させるための交渉術

価格転嫁はただ「値上げしたい」と伝えるだけでは通りません。以下のような準備が重要です。
1. コスト構造の可視化
どのコストがどれだけ増加しているかを明確にする必要があります。とくに人件費の増加については、求人市場の動向と照らして説明できると説得力が増します。
2. 客観的なデータの活用
「社内調査」ではなく「社外からの信頼できるデータ」を使うことが重要です。たとえば、最低賃金の推移や業界ごとの時給相場、求人倍率などのデータです。
3. ストーリーとして伝える
「この賃金でないと人が集まらず、結果として品質が下がる」といった全体像を説明し、価格転嫁が取引先にとっても利益になることを理解してもらうことが重要です。
“攻め”ではなく“共に乗り越える”姿勢での交渉が、取引先の共感を得やすくなります。
成功事例:大手コールセンター企業の価格転嫁

私が過去に関わった大手コールセンター企業の事例をご紹介します。この会社はBPOサービスを提供し、複数業界からのコールセンター業務(ヘルプデスクやテクニカルサポート)を受託していました。
当時、コールセンター業界では採用競争が激化し、時給も上昇傾向にありました。求人広告の担当として私は、以下のような支援を行いました:
- 過去数年の最低賃金の推移
- 地域別・業界別の時給相場データ
これらをまとめた資料を提供し、社内での検討材料としてだけでなく、取引先との価格交渉資料として活用してもらいました。
ポイントは「自社調査」ではなく「第三者のデータ」を使ったこと。信頼性の高い資料が交渉の説得力を高め、結果的に価格転嫁に成功。賃金を他社より高く設定できるようになり、採用もスムーズに進むようになりました。
価格転嫁は単なる値上げではなく、採用力の強化にもつながる戦略です。
私の視点:経営支援の現場から感じる価格転嫁のリアル

私は現在、中小企業診断士として経営コンサルタントの立場で、さまざまな企業の支援に携わっています。
ここ最近、価格転嫁は大きな経営課題として注目されており、国だけでなく都道府県や市町村単位でも支援施策が打ち出されています。補助金や専門家派遣などの制度も充実してきています。
支援の現場で感じるのは、価格交渉では「どれだけ企業努力をしてきたか」が問われるということです。原価の見直し、業務効率化、自社努力を尽くした上での交渉であることが伝われば、相手の納得も得やすくなります。
逆に、企業努力が見えない状態で価格交渉に入ってしまうと、「本当に必要な値上げなのか?」と相手に疑念を持たせてしまいます。たとえば交渉してきた社長が高級車で現れれば、交渉相手の感情面にマイナスの印象を与えることもあります。
価格交渉は、理屈(理性)だけでなく感情にも配慮が必要です。相手の納得感を得るためには、「論理」と「共感」の両方を大切にする姿勢が欠かせません。
まとめ|採用強化のために価格転嫁を「経営戦略」に
今の時代、採用は“コスト”ではなく“投資”と捉える必要があります。いい人材を確保するためには、その分の原資が必要です。
その原資を生み出す手段のひとつが「価格転嫁」です。値上げというよりも、“事業の持続可能性を守るための選択肢”として、取引先と対話していくことが求められています。
採用と経営は切り離せません。価格交渉という一見“営業的”なアプローチも、人事・採用を成功させるための重要な仕事です。
ぜひ、価格転嫁を「経営と採用を両立させる戦略」として前向きに検討してみてください。
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