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転職祝い金の全面禁止へ:求職者・企業・仲介業者に求められる意識改革

2025年4月から、転職者に対する「就職祝い金」が全面的に禁止されます。これまで医療、看護、IT業界を中心に広がっていた“転職ころがし”と呼ばれる悪質な再転職の促進行為に、ようやく規制がかかることになりました。

採用コンサルタント:大岩

「転職ころがし」は実はかなり前から問題視されていました。今回の祝い金全面禁止の規制で今後は悪質な転職の斡旋に歯止めがかかることが期待されています。

本記事では、その背景と今後の影響について、特に企業の経営者や人事採用担当者に向けて解説します。

背景にある“転職ころがし”とは?

祝い金を利用して求職者に短期間での再転職を促す“転職ころがし”が横行し、企業にとっては大きな損失となっていました。企業は仲介業者に高額な紹介手数料(年収の25~50%)を支払って人材を採用していますが、紹介された人材がわずか数カ月で再転職してしまうと、その費用は“無駄”になります。とくに祝い金は手数料の30%程度が支給されるケースもあり、それが転職を後押しする要因となっていました。

こうした動きは、とりわけ人材の流動性が高い業界で顕著で、医療・看護・ITなどの分野では、採用してもすぐに転職されてしまうという“空回り”が起きていました。紹介会社の中には、一度紹介した人材に再度アプローチをかけて別の職場を紹介し、再び手数料を得るというビジネスモデルを築いているところもありました。転職者にとっても「祝い金がもらえるから」という理由で安易に転職を繰り返す傾向が見られ、それが職場への定着を妨げ、キャリア形成にも悪影響を及ぼしていたのです。

企業にとっては、せっかくコストをかけて採用した人材が定着せず、何度も採用活動を繰り返さなければならないという悪循環が生まれていました。これは紹介手数料だけでなく、教育・引き継ぎの工数やチームへの影響といった、目に見えにくい損失も伴う深刻な問題です。

企業にとっての“祝い金リスク”

たとえば、ある大手小売業では、数年かけてIT人材を100人以上増強しましたが、年間20~30人が再転職してしまうとのことです。多くのケースで「仲介業者からもっと条件の良い話があった」との理由で辞めており、企業側の不満はピークに達していました。なかには、入社後1〜2カ月で再転職するケースもあり、もはや面接や入社手続きにかけた工数すら無駄になるレベルです。

さらに、エージェントによっては「祝い金があるから一度入社してみては」と求職者に軽く勧めるような姿勢もあり、企業側からすると真剣に選考を行う意味を失わせる行為と感じることもあります。こうした状況では、誠実な採用活動をしている企業ほどダメージを受け、採用への投資が報われない構造になってしまいます。

短期的な利益のために求職者のキャリアや企業の雇用安定を犠牲にする“転職ころがし”は、市場全体の信頼を損なう行為といえるでしょう。

規制強化に至った背景と具体的な内容

こうした事態を受け、厚生労働省は2025年4月より、祝い金の全面禁止と、2年以内の再勧奨の禁止を施行します。過去にも行政指導や指針の改正が行われましたが、十分な効果は見られず、特に医療・看護・保育分野では違反が多発していました。

実際に、2023年8月~2024年5月に実施された調査では、無期雇用人材を紹介する全国約1,200の職業紹介事業所のうち、716カ所(約6割)で職業安定法などの違反が確認されました。違反内容としては、紹介後の離職者数のホームページ不記載が551カ所、上限を超える手数料の徴収が409カ所、賃金形態や休憩時間などの労働条件の未明示が336カ所、ギフトカードや現金による祝い金の提供が25カ所といったものです。

厚労省はこれらの違反事業所に対し改善指導を行い、今後は違反が続く場合には許可取り消しも視野に入れる方針を示しています。求人サイトなどの募集情報等提供事業も規制対象となり、透明性のある情報提供が義務付けられることになります。

悪質なエージェントによる求職者への不適切対応

とくに看護師向けの転職エージェントなどでは、悪質な対応により求職者が不快な思いをするケースが後を絶ちません。たとえば、まだ転職を考え始めたばかりの段階で、エージェントから繰り返し電話がかかってきたり、求人の断りを入れると不快な対応をされるなど、強く急かされているように感じる求職者も少なくありません。

中には「アンケートに答えたらギフトカードがもらえる」「面接に行くだけでお礼金が出る」といった金銭的インセンティブを提示されることもありますが、こうした手法がかえって不信感を招き、慎重に職場を選びたい求職者にとって逆効果になってしまうこともあります。

求職者にとって大切なのは、自分のペースや価値観に合ったサポートを受けられるかどうかです。サービス内容を十分に理解し、相性の良いエージェントを選ぶことが重要です。もし“しつこい”と感じるようであれば、遠慮せず担当変更を申し出たり、他のサービスに切り替える判断も必要になるでしょう。

求職者の選択眼が問われる時代へ

今回の規制強化は、企業・仲介業者・求職者それぞれが意識を変える大きな転機といえるでしょう。求職者の多くが転職理由として「給与」を最重視している実態がありますが、目先の収入だけで職場を選ぶと、かえってキャリア形成に悪影響を及ぼすリスクもあります。

レバテックの調査によれば、エンジニアの転職理由の約50%が「給与」である一方、「スキルアップ」は約12%にとどまっています。祝い金のような一時的なメリットではなく、自分の価値観や成長機会に合った職場選びが、長期的な満足度やキャリアの安定につながるのです。

企業の採用力がこれからの競争力に

企業側としても、仲介業者任せにするのではなく、自社での採用力や定着率を高める取り組みが求められます。たとえば、求職者が安心して働ける環境の整備、現場のリアルな情報発信、自社の魅力を的確に伝える採用広報などが重要なポイントになります。

また、採用後のオンボーディングや人間関係のケアも定着率に大きく影響します。特に中途採用者にとっては、初期段階のフォローや相談しやすい空気感が職場への安心感を高めます。採用は「入り口」ではありますが、そこで終わらせず、入社後の活躍を見据えて設計することが、企業の持続的な成長につながります。

自社の採用戦略を磨き続けることこそが、今後の競争力を左右する重要な要素です。

“健全な転職市場”の実現に向けて

就職祝い金の全面禁止は、単なるルールの変更ではなく、転職市場の健全化に向けた大きな一歩です。求職者も企業も、目先の利益や効率にとらわれるのではなく、信頼と継続性を重視した関係づくりが求められています。

今後は、転職が「お得なチャンス」ではなく、「人生のステップアップのための選択」として扱われるべきです。そのためには、紹介するエージェント側の姿勢も、採用する企業側の姿勢も、そして転職を希望する本人の視点も、より誠実で丁寧なものが求められます。

健全な市場とは、誰かだけが得をするのではなく、関わるすべての当事者が適正な成果を受け取り、安心して活動できる場であるはずです。転職支援が一時的な“成果”ではなく、長期的な“信頼”の積み重ねに基づいたものであることが、これからの業界の価値を決めていくでしょう。

よくある質問(Q&A)

Q1. 就職祝い金の全面禁止はいつから施行されるのですか?

2025年4月1日から、職業紹介事業者および募集情報等提供事業者による無期雇用への祝い金支給が全面的に禁止されました。

Q2. 祝い金が禁止された後、エージェントの役割はどう変わるのでしょうか?

エージェントには、金銭的インセンティブに頼らない本質的なマッチング支援が求められます。求職者の意向や企業の実情に寄り添った丁寧なサポートが今後の信頼構築の鍵となります。

Q3. 企業としては何に注意すべきですか?

エージェント任せにせず、自社でも求職者との接点を持ち、応募前からの情報発信や現場理解の促進を図ることが大切です。契約時には手数料や返金条件などの確認も欠かせません。

Q4. 今後、祝い金以外のインセンティブも規制される可能性はありますか?

はい。既にギフトカードや旅行券なども違反対象となっており、実態に応じてさらなる規制が加わる可能性があります。業界としての透明性向上が求められています。

まとめ

今後の採用活動では、「定着」や「相性」を重視したマッチングがますます重要になっていくでしょう。経営者や人事担当者にとっては、仲介業者任せの採用から一歩踏み出し、自社の採用戦略を見直す好機となるはずです。

求職者の働き方や価値観が多様化している今、企業には「短期で人を採る」発想ではなく、「この人と長く働いていけるか」という視点がより求められています。採用活動は、単なる欠員補充ではなく、自社の未来を共に築く仲間探しです。

その意味でも、今回の規制強化をチャンスと捉え、健全で信頼に基づく採用活動への転換が、企業の持続的な成長と働き手との良好な関係構築につながっていくのではないでしょうか。

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ABOUT ME
採用人事コンサルタント 大岩貴文
大手メディアの求人広告営業を10年経験した後、経営コンサルタント唯一の国家資格である中小企業診断士の資格を取得。採用人事に強いコンサルタントとして、採用支援、研修講師、経営改善などを中心に活動中。経済産業省認定経営革新等支援機関、福岡県商工会連合会エキスパートバンク登録専門家。

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