最近、介護業界で倒産が増えているというニュースを耳にした方も多いのではないでしょうか。実際、東京商工リサーチによれば、2024年の介護業界の倒産件数は前年比41%増の172件。休廃業も含めると600件を超え、過去最多を記録しています。
なぜこのような事態になっているのか?背景には、人手不足と人件費高騰による収益圧迫が深く関係しています。
さらに、コロナ禍で調達した借入金の返済が本格化し、経営を続けるのが難しくなった事業者も多く、新たな「撤退ラッシュ」が起きています。つまり、介護業界は今、採用と経営の両方に課題を抱える二重苦の状態にあると言えます。
介護業界の倒産が増加する3つの原因とは?

介護業界で倒産が増加している背景には、主に以下の3つの要因があります。
1. 人件費の上昇と採用難
介護職の有効求人倍率は4.25倍(2024年12月時点)と、全職業平均(1.22倍)を大きく上回っています。人材確保が困難な中、競争力を保つために賃金を引き上げざるを得ず、人件費が経営を圧迫しています。
2. 報酬単価の伸び悩みと構造的な赤字
介護報酬は大きく引き上げられておらず、コスト上昇に見合った収益を確保できない構造が続いています。福祉医療機構の調査では、2023年度に赤字だった拠点は養護老人ホームで55%、訪問介護で46%と、半数近くにのぼります。
3. 借入金返済と固定費負担の増加
コロナ禍で調達した融資の返済が本格化しており、家賃や人件費などの固定費を抱える中小事業者にとっては、大きな経営負担となっています。その結果、廃業やM&Aによる事業整理を選択する事業者が増加しています。
介護業界で進むM&A・事業再編の実態と狙い

こうした経営悪化を背景に、M&Aによる事業売却や統合が加速しています。2024年の介護関連のM&A件数は143件と前年比27%増。
特徴的なのは、電力会社や化学メーカーなどの異業種大手が介護事業から撤退している点です。
- 東電HDは子会社の東電パートナーズをウエルシアHDに売却
- 積水化学は介護事業をマウンテンキャピタルに売却
一方、買収側は、稼働率の改善・報酬加算の活用・事務の集約などによって収益化を図る戦略です。介護事業の経験者をチームに持つファンドが中小規模の事業者を買収・グループ化して効率化し、5年以内の再売却を目指す動きも見られます。
介護職の採用が難しい理由と人事が抱える課題

介護業界の採用は、今や人が集まらない、採っても定着しないというダブルパンチに悩まされています。
- 応募が少なく、採用コストだけが上がる
- 採用してもすぐに離職してしまう
- シフトが組めず、サービス提供に支障が出る
特に、現場マネジメントの弱さや教育体制の不備が離職を招いているケースが多く、「とにかく人が足りない」状態が続くことで職員一人ひとりの負担が増大→さらなる離職という悪循環に陥っています。
私が支援した介護事業所の現場から

私は採用に強い中小企業診断士として、日頃から介護事業所の経営者や採用担当者から多くのご相談をいただいています。最近支援したある介護事業所では、外国人実習生の受け入れを進めました。
言葉や文化の違いに戸惑いながらも、実習生たちは若くて意欲があり、シフトにも積極的に入ってくれるため、職場として非常に助かっているという声をいただいています。
この事業所の経営者はとても行動力があり、情報収集にも熱心で、次はタイミーのようなマッチングサービスを活用して、ギグワーカーとの接点も模索しています。
私はこの事例を通じて、介護業界で生き残るためには、情報を集めて素早く動ける経営者の姿勢が何より重要だと改めて感じました。
介護業界で倒産を防ぐには?経営と採用の両立戦略とは

この厳しい状況を乗り越えるには、「採用力」を経営戦略の中核に据えることが重要です。
経営と採用を両立させる視点
- 採用計画を人員充足だけでなく定着率を前提に設計する
- 非正規や外国人材、シニア人材の活用を前向きに検討する
- 採用後の育成とフォロー体制を整えることで離職を防止
- 小規模でもマネジメント力の高い施設は採用競争に強い
短期的な採用成功ではなく、中長期で持続可能な組織運営を見据えた戦略が求められています。
介護業界の今後と経営者・人事担当者が今すべきこと

日本の介護保険制度は導入から25年。今後も高齢者人口は増え続ける一方で、報酬単価の大幅な引き上げは見込みにくいのが現実です。
全国には25万超の介護施設・事業所がありますが、そのすべてが存続できるとは限りません。今後は、
- 経営の統合・再編・大規模化
- ITや自動化による業務効率化
- 採用と教育の仕組み化
が生き残りのカギとなるでしょう。
大事なのは、「現場がまわらないから人を採る」ではなく、「現場が持続可能になるように人を採る・育てる」発想です。
介護業界の採用と経営に関するよくある質問(Q&A)
Q1. 採用にお金をかけても人が来ないのですが、何が問題でしょうか?
A. 求人の出し方や内容が競合と比べて見劣りしている可能性があります。また、給与や条件だけでなく、職場の雰囲気や教育体制なども重視されるため、情報発信の見直しも重要です。
Q2. 採用してもすぐ辞めてしまいます。定着率を上げるには?
A. 面接時の見極めだけでなく、入職後のフォロー体制がカギです。メンター制度の導入や初任者研修の充実、職場内のコミュニケーション促進が効果的です。
Q3. 採用担当が他業務と兼務で十分に対応できません。どうすれば?
A. 外部パートナーの活用も一つの手です。採用の仕組みや業務フローを整備すれば、少人数でも効率的な採用が可能です。まずは採用業務の棚卸しから始めてみましょう。
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