「求人を出しても応募が集まらない」「採用できても定着しない」と悩む中小企業は少なくありません。しかし、その原因を求人媒体だけに求めてしまうと、本質的な課題を見落としてしまうことがあります。
私は中小企業診断士として経営支援を行う一方、約10年間にわたり採用広告営業として800社以上の採用現場に携わってきました。また、信用保証協会や金融機関、中小企業活性化協議会などと連携し、経営改善と採用支援を組み合わせた支援も行っています。その経験から一貫して感じるのは、採用は人事だけの仕事ではなく、経営そのものだということです。
中小企業の採用戦略とは、「経営目標を実現するために、どのような人材を、どのような方法で採用し、定着・活躍までを設計すること」です。
本記事では、中小企業の採用市場の現状から採用課題、採用戦略の立て方、実行の優先順位までを、私が現場で見てきた視点を交えながら解説します。
中小企業の採用市場と現状
中小企業の採用環境は年々厳しさを増しています。
少子高齢化による労働人口の減少に加え、求職者の企業選びも大きく変化しました。以前は求人誌やハローワークが中心でしたが、現在はIndeedや求人サイトだけでなく、採用ホームページ、口コミサイト、YouTube、SNSなど複数の情報を比較した上で応募先を決める人が増えています。
そのため、「求人を掲載すれば応募が集まる」という時代ではなくなりました。採用活動は、求人媒体だけでなく、自社の魅力をどのように伝えるかまで含めて考える必要があります。
中小企業が採用に苦戦する理由
私が採用相談を受ける企業には、共通した課題があります。
応募が集まらない
最も多い相談です。応募が少ない原因を求人媒体だけと考えがちですが、実際には仕事内容が伝わっていなかったり、採用ターゲットが曖昧だったりするケースも少なくありません。
求める人材から応募が来ない
応募はあるものの、企業が求める人物像とのミスマッチが起きるケースです。募集条件だけでなく、「どのような人に来てほしいのか」が求人情報から伝わっているかを見直す必要があります。
面接辞退・内定辞退が多い
応募後の情報提供や面接での説明が不足すると、辞退につながることがあります。会社の雰囲気や働くイメージを具体的に伝える工夫も重要です。
採用しても定着しない
採用は入社で終わりではありません。教育体制や受け入れ環境、評価制度などが整っていなければ、早期離職につながる可能性があります。
支援事例:三木鋼業株式会社(専門サービス業・リサイクル/社員数70名)
金属スクラップの回収・加工を行う三木鋼業様は、現場系の仕事ゆえに「3K」のイメージが先行し、欠員が出るたびに募集をかけても応募が集まりにくい状態が続いていました。人材紹介やダイレクトリクルーティングも検討しましたが、成功報酬の負担が大きく継続的な手段にはなりにくい状況でした。
支援では求人媒体を変える前に、採用の目的とターゲットを整理し、自社の強みを求職者目線の採用メッセージに言語化。求人票と採用ホームページを見直し、求人検索エンジンと連動する応募導線を構築しました。その結果、半年間で13件の応募を獲得し、現場スタッフ2名・事務職1名の計3名の採用につながりました。「何が採用課題なのか」を整理することが、媒体変更よりも先に効いた事例です。
中小企業の採用戦略は何から始めるべきか
採用戦略とは、求人媒体を選ぶことではありません。経営目標を実現するために必要な人材を明確にし、その人材に選ばれる仕組みをつくることです。
① 採用目的を明確にする
まず確認したいのは、なぜ採用するのかです。欠員補充、売上拡大のための増員、技術継承、将来の管理職候補の育成では、採用すべき人物像も採用方法も変わります。
② 採用ターゲットを決める
「誰でもいい」という採用では、自社に合う人材と出会うことは難しくなります。年齢や経験だけでなく、価値観や働き方も含めてターゲットを整理することが重要です。
③ 自社の魅力を整理する
給与や休日だけでは差別化が難しい時代です。仕事のやりがい、成長環境、社風、教育制度など、自社ならではの価値を整理し、求職者へ伝える必要があります。
④ 採用チャネルを選ぶ
採用ターゲットに応じて、ハローワーク、Indeed、求人サイト、採用ホームページ、SNS、学校訪問、リファラル採用などを組み合わせます。採用チャネルは目的ではなく手段です。
⑤ 入社後の定着まで設計する
採用活動だけ改善しても、定着しなければ採用コストは繰り返し発生します。入社後の教育や現場での受け入れ体制まで含めて設計することで、採用活動は初めて成果につながります。
支援事例:株式会社タダノエステック(製造業・車両製造/メンテナンス/社員数209名)
東証プライム上場企業の子会社として高所作業車の製造などを手がけるタダノエステック様は、募集はしているものの応募が集まらず、選考途中の辞退も多い状態でした。社員の年齢構成は40代以上が中心で、20〜30代の若手を採用し次世代のリーダーを育成したいという課題がありました。
支援では、求人の出し方を変える前に「何のために採用するのか」「どんな人に来てほしいのか」というペルソナ設計から着手し、求職者目線での訴求軸と採用メッセージを半年かけて言語化しました。その結果、再開後の1年間で87名の応募が集まり、狙い通り20代・30代を中心に12名の採用に成功。「頭数を揃える採用」から「採りたい人材を採れる採用」へと変わった事例です。
事業再生・経営改善の視点から考える採用戦略
ここが、私が他の採用支援と違う点だと考えている部分です。
採用人数は、経営計画や財務状況と切り離して考えることはできません。診断士として経営改善に携わる中で、採用の相談を受けた際に必ず確認するのが、労働分配率と損益分岐点の関係です。
人件費が売上総利益に対してどの程度の比率を占めているか(労働分配率)を見ずに増員を進めると、採用直後は人手不足が解消されても、固定費増加によって損益分岐点が上がり、経営の余力を圧迫することがあります。逆に、人手不足を理由に採用を控え続ければ、受注機会や生産能力の上限が事業成長の足かせになることもあります。
つまり、「何人採るか」ではなく「どの利益水準で何人まで採用に耐えられるか」を先に整理してから、採用ターゲットや採用チャネルを検討する順序が本来は正しいと私は考えています。
私が「採用は経営そのもの」と考えるのは、このためです。採用活動を人事の課題として切り離すのではなく、資金繰り表や利益計画と合わせて設計することで、採用後の経営の安定性も含めた戦略になります。
支援事例:有限会社カネクラ加工(製造業・家具/自動車部品製造/社員数50名)
福岡県大川市で家具製造から自動車部品加工へと事業転換してきたカネクラ加工様は、人手不足を派遣スタッフで補い続けた結果、自社の中核を担う社員が少なくなり、将来の管理者候補も見えにくくなっていました。派遣依存は短期的には合理的でも、続けるほど組織の育成機能が弱くなるという構造的な課題です。
支援では、限られた支援回数の中でまず人員構成・採用状況・業務内容・将来構想を棚卸しし、「何をやらないか」も含めて方向性を整理。コストをかけずに運用できる採用ホームページと求人検索エンジンの活用を提案しました。公開から約1ヶ月で9名の応募を獲得し、派遣で埋めるだけの体制から自社で採用・育成する方向へ舵を切るきっかけになりました。採用を組織構造・将来の経営体制の問題として扱った事例です。
中小企業で成果につながりやすい採用手法
採用手法は数多くありますが、重要なのは自社に合った方法を選ぶことです。
代表的な手法として、求人票の改善、採用ホームページの整備、Indeedなど求人検索エンジンの活用、YouTubeやSNSによる採用広報、高校や専門学校との関係づくり、採用支援サービスの活用などがあります。
複数の施策を同時に実施するよりも、まずは自社の採用課題に合った施策から取り組むことが重要です。
支援事例:東和機電工業株式会社(製造業/社員数15名)
トンネル工事用の型枠製造を手がける東和機電工業様は、ハローワーク中心の募集では応募が集まらず、来ても仕事内容とのミスマッチが起きる状態でした。
支援では、いきなり採用するのではなく、単発・短時間で働ける「スポットワーカー」として実際に現場を体験してもらう入り口を設計。未経験でも取り組みやすい作業の切り出しや、1日単位で参加できる体験型の募集に切り替えました。約2ヶ月で10名程度が現場を体験し、そのうち1名が長期採用につながりました。「応募→面接」ではなく「体験→納得→採用」という順序に変えたことで、応募のハードルとミスマッチの両方を下げた事例です。
採用改善は何から着手すべきか
採用課題によって、優先順位は異なります。
応募が集まらない場合
- 採用課題を整理する
- 採用ターゲットを見直す
- 求人票を改善する
- 採用ホームページを整備する
- 写真・動画など採用広報を充実させる
- 求人媒体を見直す
応募はあるが採用できない場合
採用基準、面接方法、労働条件、求人内容を確認しましょう。
採用できても定着しない場合
教育体制、現場フォロー、評価制度、コミュニケーションなど、組織運営まで見直すことが重要です。
中小企業が採用支援を活用するメリット
採用支援の価値は、求人媒体を紹介することではありません。第三者の視点で採用課題を整理し、採用活動だけでなく、組織づくりや経営課題まで含めて改善策を検討できることにあります。
特に、中小企業では経営者自身が採用責任者を兼ねているケースも多くあります。そのため、経営戦略と採用戦略を一体で考えることが、長期的な採用成果につながります。
ここで紹介した事例を含む支援実績は、支援事例一覧で詳しく紹介しています。
よくある質問
中小企業はどの採用方法が効果的ですか?
企業の業種や採用したい人材によって異なります。まずは採用ターゲットを整理し、それに合った採用手法を選ぶことが重要です。
Indeedだけで採用できますか?
Indeedだけで採用できる企業もありますが、求人票や採用ページ、企業情報が十分に整っていなければ成果につながらない場合があります。
採用サイトは必要ですか?
多くの求職者は応募前に企業情報を調べます。採用サイトは、仕事内容や働く環境を伝える重要な情報発信の場です。
採用支援はどのような企業に向いていますか?
応募が集まらない企業だけでなく、採用活動を見直したい企業や、採用と経営を一体で考えたい企業にも適しています。
採用戦略はどのくらいの頻度で見直すべきですか?
採用市場や経営状況は変化するため、少なくとも年に一度は採用戦略を見直し、必要に応じて採用計画を更新することをおすすめします。
まとめ
中小企業の採用は、求人媒体だけを見直しても根本的な解決につながらないケースがあります。
採用目的を整理し、ターゲットを明確にし、自社の魅力を伝え、定着まで設計することが重要です。さらに、採用を経営計画や財務状況と一体で考えることで、持続的な採用活動につながります。
採用活動に悩んだときは、「どの媒体を使うか」ではなく、「自社の採用課題は何か」という視点から整理してみてください。
採用について相談したい方へ
「応募が集まらない原因が分からない」「自社に合った採用戦略を考えたい」とお考えでしたら、一度採用課題を整理してみませんか。
株式会社コクリエパートナーでは、採用活動だけでなく、経営計画や組織づくりも踏まえた採用戦略についてご相談いただけます。
まだ課題が明確になっていない段階でも構いません。現状を整理し、自社に合った採用の進め方を一緒に考えます。

