転職が「当たり前」と言われる時代に突入した今、若手社員の動向に注目が集まっています。
「最近の若者はすぐ辞める」「Z世代は転職志向が強い」といった声を耳にすることも多く、 現場の経営者や人事担当者の中には、新卒採用や定着に不安を感じている方もいるかもしれません。
しかし、実際のデータや背景を冷静に見ていくと、こうした印象が必ずしも“事実”とは限らないことがわかります。本記事では、若手の早期離職や転職にまつわるデータを紐解きながら、 Z世代の価値観と、それに対応する企業の具体的なアプローチについて解説していきます。
『最近の若者はすぐ辞める』は本当か?

「最近の若者はすぐ辞める」と感じている経営者や採用担当の方は多いのではないでしょうか? しかし、実際のデータを見ると、その印象とは異なる事実が見えてきます。
厚生労働省の調査によると、2021年に大学を卒業した新卒社員のうち、3年以内に離職した割合は34.9%。 前年よりやや増加したとはいえ、長期的に見るとほぼ横ばいの傾向です。 実際、過去30年にわたって早期離職率は28〜36%の範囲内に収まっており、2004年の36.6%が最高です。
また、特に注目すべきは「1年以内に辞める」人の割合が減ってきているという点。 2023年卒では10.9%と、20年前より約4ポイント低下しています。
つまり、「若者はすぐ辞める」というイメージは、実態とは少しズレている可能性があるのです。
なぜ「若者はすぐ辞める」と感じるのか

それでは、なぜ多くの企業が「最近の若者は転職志向だ」と感じるのでしょうか?
まず一つは、若手人材の価値が高まっていること。 少子化が進む中で若手社員が辞めることのインパクトが大きくなっており、 その分1人の離職が「一大事」として受け取られやすくなっているのです。
もう一つは、退職の理由が従来とは異なること。 昔のように「待遇が悪いから」「上司が厳しいから」という理由だけでなく、 最近では「やりがいが感じられない」「成長実感がない」など、より個人の価値観に根ざした理由が増えています。
Z世代の若者たちは、職場の“ゆるさ”にも敏感です。 たとえ待遇が良くても、成長を感じられなければ「ゆるブラック」として見なされ、敬遠される傾向すらあります。
Z世代の転職観は過去世代と何が違うのか

Z世代の仕事観を理解するには、彼らが育ってきた社会背景も踏まえる必要があります。
SNSの普及により、常に他人と自分を比較しやすい環境にあり、 「他の会社の同期はどうなのか」「もっと自分に合う場所があるのでは」といった思考が自然と働きます。
また、働く目的も多様化しています。 生活のためだけではなく、「社会との接点」「自己実現」「環境や人間関係の心地よさ」など、 より広範な価値を仕事に求める傾向が強まっています。
Z世代が他の世代と大きく異なるのは、仕事に対する価値観です。
「成長できるか」「意味を感じられるか」が重要視され、 単なる安定や好待遇では心が動かない傾向があります。
また、同世代との比較によって不安を感じるケースも。 「友人は転職して年収が上がっている」「別の会社ではもっと裁量がある」といった声が、 今いる職場への不満につながることもあります。
転職は後ろ向きなものではなく、「より良い未来を選ぶ前向きな行動」だと考える若者が増えているのです。
採用人事ができる“Z世代対応”3つのポイント

それでは、企業はZ世代にどう向き合えばよいのでしょうか? 以下の3つの視点がカギになります。
1. 入社後の成長機会を“見える化”する
「この会社で何が身につくのか」「どんな成長があるのか」を入社前後で丁寧に伝えることが大切です。 研修計画やキャリアパスを具体的に示すことで、若手の安心感とモチベーションが高まります。
2. 若手との定期的な対話で“不安の芽”を拾う
1on1ミーティングやフィードバック面談を通じて、 早期の段階で不満や迷いをキャッチする仕組みを整えましょう。 定期的な対話は、信頼関係の構築にもつながります。
3. 価値観の多様性を前提とした柔軟なキャリア設計
「ずっと働きたい人」「数年で転職したい人」どちらも存在する前提で、 柔軟なキャリア支援を行うことが重要です。 長期雇用だけをゴールにせず、「選ばれ続ける会社」であることが求められます。
「若者=転職志向」は誤解かもしれない

近年、「若者は転職に積極的で腰が落ち着かない」というイメージが一人歩きしていますが、 それがすべての若者に当てはまるわけではありません。
実は、若者の中にも「定年まで働きたい」と考えている人は一定数います。 リクルートの調査によると、2025年卒の大学生の18.7%が「定年まで働きたい」と回答しています。
また、総務省のデータによれば、転職した人の数はこの20年ほぼ横ばい。 2005年が約340万人、2024年も約331万人と大きな変化は見られません。
つまり、世の中で言われているほど転職が“当たり前”になっているとは限らないのです。
私の現場から見える「若手の定着」とは?

私は採用コンサルタントとして、これまで多くの企業の採用や定着支援に関わってきました。 そのなかでも、特に多いのが「若手の早期離職」や「若手人材の採用が難しい」という相談です。
企業側の努力として、福利厚生の充実や休日数を増やす取り組みは増えてきました。 しかし、実際に定着に成功している会社には、もう一つ大きな特徴があります。
それは「対話の文化」が根づいているということです。
ある製造業の企業では、社長が定期的に若手社員一人ひとりと面談を行っています。 その際、「怒らないから、率直に話してほしい」と伝え、職場の小さな不満や疑問を丁寧に拾い上げているのです。
社員旅行に行ったり、社長自らが食事に誘ったりと、関係構築にも積極的です。 その結果、離職率は非常に低く、社員満足度も高い状態が続いています。
大切なのは、“つかず離れず”の距離感で、若手と向き合う姿勢。 制度だけではなく、人の関わりが「この会社で働き続けたい」という気持ちを育てているのだと感じます。
まとめ|「転職は当たり前」の時代に、企業が問われる視点
「若者はすぐ辞める」「転職が当たり前」—— こうした先入観だけで若手を語るのは危険です。
数字に裏打ちされた事実を冷静に見つめ、 そのうえで、Z世代の価値観に合わせた対応を模索していくことが、 今後の採用と定着のカギになります。
若手の離職を“問題”と見るのではなく、 企業の変化を促す“きっかけ”と捉える視点こそが、 人材不足時代を乗り越えるヒントになるはずです。
よくある質問(Q&A)
Q1. 若手社員の離職率は本当に増えているの?
A. データ上、過去30年間の離職率はほぼ横ばいで推移しており、 むしろ1年以内の離職は減少傾向にあります。
Q2. なぜ「若者はすぐ辞める」と感じる企業が多いのでしょうか?
A. 少子化によって若手人材の重要性が増しており、 1人の離職のインパクトが大きくなっていることが背景にあります。
Q3. Z世代が会社に求めるものは何ですか?
A. 成長機会や自己実現、職場の心地よさなど、多様な価値観を重視しています。 単に安定や高待遇だけでは引き留められない傾向があります。
Q4. 離職を防ぐために企業ができることは?
A. 成長機会の見える化、定期的な対話、柔軟なキャリア支援がポイントです。 若手の価値観に寄り添った設計が重要です。
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