「日本の生産性は低い」とよく言われますが、その背景にある構造的な課題を、経営者や人事担当者の皆さんはどれほど把握しているでしょうか?
生産性が低いと言われて嬉しい人はいないと思います。一生懸命、まじめに働いているのになぜ日本は生産性が低いと言われるのでしょうか。実は、他の国と比べて生産性が低いのは文化や考え方に原因があると考えられます。
本記事では、日本の労働生産性が低い理由と、それにどう立ち向かうべきかを「付加価値」に焦点をあてて解説します。
日本の生産性はなぜ低いのか?

日本の労働生産性は国際的に見ても低い水準にあります。2023年の時間当たり労働生産性は56.8ドルで、OECD加盟国38カ国中29位。G7では最下位に位置し、一人当たりでは約92,663ドルと米国の約6割にとどまっています。
構造的な要因
要因はさまざまですが、特に指摘されているのは長時間労働文化や非効率な業務体制、属人化、年功序列の評価制度、そしてデジタル化の遅れです。たとえば、業務に必要以上の人員が割かれたり、紙ベースの業務が残っていたりといった非効率が、日常的に見られます。
評価とモチベーション
「頑張ること」が評価される一方で、「成果を出すこと」への意識が薄くなりがちなのも課題です。努力に対する評価が曖昧であれば、社員のモチベーションは下がり、生産性の向上にもつながりません。
こうした背景から、日本の生産性の低さは単なる「効率」の問題ではなく、企業文化や構造的な課題に起因しているといえます。
欧州に学ぶ“高付加価値”のヒント

生産性を高めるには、単に業務を効率化するだけでは不十分です。欧州の企業に学ぶべきは、「高付加価値」への視点です。
価格に見合った価値提供
たとえば、LVMHやエルメス、ロレアルなどの欧州企業は、高価格でも顧客に選ばれ続けています。理由は、商品そのものの性能や機能だけでなく、「体験」や「ブランドの意味」に価値を見出しているからです。
差別化の重要性
ロレックスやオメガといった高級時計は、ぜんまい式で手間がかかるにもかかわらず、多くの人がその「使う体験」自体を楽しみ、満足しています。一方で、日本製の高性能な時計は数万円で購入できるにもかかわらず、「安くて正確」というだけでは差別化が難しく、価格に見合った付加価値を主張しづらい状況です。
つまり、「高品質・低価格」のみを追求するのではなく、「これじゃなきゃダメ」と思ってもらえる価値をどう作るかが、これからの鍵となります。
日本企業が取り組むべき「高付加価値化」の視点

今、日本企業に求められているのは「高品質・低価格」から「高品質・適正価格」へのシフトです。価値ある商品・サービスに正しい価格をつけることが、生産性を押し上げるための出発点になります。
サービスの再設計
たとえば、日本の宅配業界では、時間指定が無料で利用できるのが当たり前になっています。しかし、それには人手や時間がかかり、コストも膨らみます。顧客満足は得られても、企業の利益には結びついていないケースが多いのです。
また、店舗での過剰な接客や丁寧すぎる対応も、時間や人員のリソースを奪う要因です。こうしたサービスを無償で提供し続ける限り、労働生産性の改善は見込めません。
ストーリー性の付加
地域の伝統工芸や小規模メーカーであっても、その技術や背景に「物語」を加えることで、価格に反映させることは十分に可能です。つまり、どの業種・規模の企業でも、高付加価値化は実現できます。
人事・経営者が果たすべき役割とは

生産性向上の鍵を握るのは「人」です。だからこそ、人材戦略の見直しと組織文化の変革が不可欠になります。
評価制度の見直し
まずは、長時間労働を評価する文化をやめ、成果や効率性を重視する評価制度への転換が求められます。たとえば、「残業すればするほど給与が増える」仕組みでは、逆に非効率が助長されてしまいます。
デジタル人材の活用
また、デジタル技術に対応できる人材の採用や育成も重要です。DXを推進するためには、現場の業務を見直す力とITツールの活用スキルが必要です。
組織の仕組みづくり
さらに、意思決定のスピードを上げるためには、権限移譲や業務の標準化、属人化の排除もポイントとなります。人事部門と経営陣が一体となって、組織の生産性を支える仕組みを整えていくことが求められます。
私の体験から感じること

私は採用コンサルタントとして、これまで多くの企業の採用活動に関わってきました。そのなかで強く感じているのは、これからの時代、企業が雇用を維持・拡大していくためには「高付加価値・適正価格戦略」に舵を切るしかないということです。
特に製造業では、「商品やサービスの価格を安く保つために、従業員の給料を抑える」という構造が根深く残っています。もちろん、経営者自身も高い報酬を得ていないケースが多いと感じます。しかし、物価や賃金上昇の機運が高まるなか、今のままでは従業員が他社へ流出するリスクが現実のものとなりかねません。
大切なのは、「まずは会社がしっかり利益を出す」ことです。そしてその利益を、社員にきちんと還元していくというマインドが不可欠です。利益を出すには、適切な価格設定と、高付加価値な商品・サービスづくりが必要不可欠です。
この視点を持つかどうかが、今後の人材確保・定着に大きな差を生むと実感しています。
まとめ
日本の「丁寧さ」や「品質の高さ」は、世界でも評価される大きな強みです。しかし、それらを“無料”で提供し続けていては、企業として持続的に利益を出すことはできません。
今こそ、「長時間働くことが美徳」という考え方を手放し、「少ない時間でより高い価値を生み出す」働き方へとシフトしていく時代です。
生産性の向上は、人材不足時代を生き抜くための“経営戦略”であり、企業の未来を切り拓く鍵でもあります。
よくある質問(Q&A)
Q. 生産性向上のためにまず取り組むべきことは?
A. まずは現状の業務を可視化し、時間とコストがかかっているにもかかわらず成果につながっていない作業を洗い出しましょう。そのうえで業務フローを見直し、ムダを減らすことが第一歩です。
Q. 高付加価値化は大企業だけができることでは?
A. いいえ、中小企業でも十分に可能です。地域性や独自のストーリー、丁寧なものづくりなどを“価値”として発信し、それに見合った価格をつけることが重要です。
Q. サービスの質を維持しながら生産性を上げるには?
A. サービスの全てを維持するのではなく、「本当に必要とされている価値」に集中することが大切です。業務を見直し、不要な工程や過剰な対応は減らしましょう。
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