企業にとって、若手社員の定着率向上は重要な課題です。特に、新卒社員が短期間で離職してしまうと、採用コストの増大だけでなく、組織の成長にも大きな影響を及ぼします。実際、採用がうまくいっていない会社では、若手の離職が進み、組織の年齢構成が逆ピラミッド型になったり、中堅層の空洞化が発生したりするケースが多く見られます。
実は採用に力を入れるよりも、従業員の定着に力をいれる方が結果的に採用数を伸ばすことにつながります。なぜなら、従業員のエンゲージメントが高まれば紹介による入社も増えるケースもあるからです。
では、そうならないために何をすべきなのでしょうか?本記事では、若手社員の定着率向上に成功した企業の事例を紹介し、自社の職場改善に活かせるヒントを提供します。特に、日本経済新聞で紹介された高岡信用金庫の成功事例を取り上げ、私自身の経験も交えながら、具体的な職場改善のアイディアを解説します。
私の体験談:定着する会社から離職が多い状態に

私は大手求人メディアの代理店で10年間、営業として勤務していました。入社当時、従業員は約30人の規模でした。業界的には離職率が高いとされていましたが、当時の会社は離職が少なく、取引先からも「なぜこんなに人が辞めないのか?」と驚かれるほどでした。
離職率が低かった理由
- 経営層との距離が近かった
- 社長や会長と直接話す機会が多く、会社の方針や将来像が明確だったため、社員は企業の方向性を理解しやすく、自分の役割や成長のビジョンを持ちやすかった
- こまめな飲み会や対話の場があった
- 仕事の悩みやキャリアの不安を上司や先輩と気軽に相談できた
- 社内の一体感が強く、帰属意識が高かった
職場改善のポイント
- 経営層と現場のコミュニケーションを最適化
- 若手の意見を反映しやすい仕組みを構築
- 信頼関係を築くための継続的な対話の場を設ける
一転、若手の離職が多い会社に
入社して5年が経つころには、会社は順調に成長し、全国に次々と拠点を立ち上げ、従業員も100人規模に拡大しました。しかし、急激な成長に伴い、若手社員の離職が増加するという課題が浮上しました。本社で一括採用し、各拠点に転勤させる流れを採用しましたが、転勤を理由に退職する社員が多くなり、定着率の低下が顕著になりました。さらに、組織の急速な拡大により、個々の社員に対するフォローが行き届かず、現場の負担が増大するという悪循環が生まれました。
- 新卒を10名以上採用しても、残るのは1〜2名
- 中堅層が育たず、ベテランと新人の間の層が不足
- 教育などの負担が増大し、現場が疲弊
私の経験は、どちらかというと失敗事例として参考にしていただければと思います。人の離職が常態化すると、職場の雰囲気が悪化し、社員のモチベーションにも影響を及ぼします。そのため、離職を防ぐ職場作りを意識し、従業員が安心して働ける環境を整えることが重要です。次に、若手が定着している企業の成功事例を見ていきましょう。
高岡信用金庫の職場改善のポイント

高岡信用金庫をご存知でしょうか?富山県にある信用金庫で、地域では「たかしん」という愛称で親しまれています。特に採用や定着に力を入れており、新卒入社後3年以内の若手離職率を直近2年間でゼロに抑えることに成功しました。さらに、25年度の新卒内定者数は24年度と比較して3倍に増加し、採用力の向上が顕著に表れています。
では、どのような取り組みがこの成果を生み出したのでしょうか?
若手の希望に沿ったキャリア形成
- 地域貢献を重視する若手向けに「地域支援部」を新設
- M&Aや販路支援などを担当し、モチベーション向上に貢献
本部登用のタイミングを早める
- 20代から本部での経験を積める制度を導入
- キャリア成長の機会を早期に提供し、定着率向上
就業時間の短縮によるワークライフバランス向上
- 勤務時間を30分短縮(17:30 → 17:00)
- 残業時間の削減、プライベートの充実を実現
- 若手の働きやすさ向上に直結
従業員の声をもとに迅速な改善
- 無記名アンケートで2000件以上の意見を収集
- 重要な要望(就業時間短縮・給与引き上げ)を迅速に実行
- 給与17%以上アップ(23年度から2年間)
- 160項目の変革を1年で実施し、スピード感ある対応を実現
いかがでしょうか。この成功事例では、従業員アンケートを活用し、現場の声を反映させながら、具体的な職場改善を実施していることが分かります。では、他の企業でも応用可能な職場改善アイディアについて詳しく見ていきましょう。
若手社員の定着率を向上させる職場改善アイディア

現場の声を把握する方法はアンケートだけではありません。直接の対話を通じて意見を収集することも重要です。ここでは、コミュニケーションの役割と職場改善に向けた具体的なアイディアを紹介します。
経営層と現場のコミュニケーションを強化
- 企業規模の拡大に伴い、経営層と現場のコミュニケーションが希薄になりやすいことを意識する
- 経営層と現場で意図的に対話の場を設ける(1on1面談、ランチミーティングなど)
- 若手の意見を積極的に拾い上げ、改善策を迅速に実行
若手が成長できる環境を整える
- 若手向けの新しい部署や役割を作る(上記、成功事例では「地域支援部」)
- キャリアアップのルートを明確に示す(20代で経営の中核に触れる機会を提供)
働きやすさの向上
- ワークライフバランスを意識した就業時間の調整
- 給与・待遇面の改善をスピーディーに実施
まとめ
職場改善のカギは、経営層と現場のコミュニケーションを密にすること、キャリア形成の柔軟性を確保すること、そして働きやすさを向上させることの3つです。従業員規模が拡大すると、離職リスクも高まるため、組織の成長に応じた適切な対策が求められます。お伝えした成功事例と私自身の経験をもとに、それぞれの企業に適した職場改善策を実施していきましょう!