オフィス回帰する企業が増えています。特にアメリカでは「リモートワークから週5日出社を義務付ける」ケースも出てきています。リモートワークの方が便利なのに「なぜ、いまオフィス回帰なのか?」と疑問に思っている方も多いのではないでしょうか。
ニュースを見ていると、ちょくちょく話題になっていますよね。リモートワークから出社に切り替えると何がいいのでしょうか?
この動きの背景には、現代の働き方が抱える“ある問題”があります。それでは、詳しくみていきましょう!
オフィス回帰とは?

オフィス回帰とは、テレワークからオフィス勤務へと戻る動きを指します。この現象は新型コロナウイルスの感染拡大から経済の回復に伴い、多くの企業で進行しています。
テレワークの導入は感染症対策として始まりましたが、現在では再びオフィスに戻る動きが加速しています。具体的には、2023年に多くの企業がオフィス回帰を決定し、特にアメリカでその傾向が強まっています。
日本国内でも、オフィス回帰の流れは例外ではありません。総務省の調査によると、テレワークの実施率が2020年以来初めて50%を下回り、企業がオフィス出社へと舵を切る要因になっています。
オフィス回帰は単なる習慣ではなく、企業の戦略的な動きとして捉えられています。それに伴い、企業はオフィス環境の改善やフリーアドレス制度の導入など、新たな働き方を模索しています。
個業化が進む現代の働き方

まずお伝えしたいのは、IT化が進んだことで「個業化」が加速している、ということです。個業化とは、ある仕事が個人に割り当てられ、一人で進めるスタイルのこと。メールやチャット、ファイル共有ツールが普及し、誰かに確認を取らなくても仕事ができる環境が整いました。
これは、業務効率という観点では非常に良いことですが、その一方で「チームで一緒にやる」という感覚が薄れやすくなる側面もあります。
減っている「同時性コミュニケーション」

もう一つの大きな要因は、「同時性コミュニケーション」が減少していることです。同時性コミュニケーションとは、リアルタイムでやり取りを行うこと。たとえば、対面での会話や電話などです。
リモートワークが進むことで、メールやチャットのような非同期コミュニケーションが主流になりました。また、働き方改革により会議時間の短縮が求められ、さらにその機会は減少しています。
その結果、「ちょっと相談」「雑談から生まれるアイデア」「その場での意見のぶつけ合い」が減ってしまい、組織としての“呼吸”が合いにくくなっています。
協働の難しさとその弊害

個人プレーが増えたことで、個人の仕事はスムーズに進む反面、チームで協働することが難しくなっています。しかし、企業にとって“協働”は極めて重要な要素です。
協働とは、単なる作業の分担ではなく、目標を共有しながら互いに意見を交換し、アイデアを磨き合いながら仕事を進めていくプロセスです。そこには、お互いの強みを引き出し合い、補完し合う関係性が欠かせません。
リモートワーク環境では、このプロセスが希薄になりがちです。会話が減ることでチーム全体の目線が合わなくなり、業務が個別最適に陥りやすくなります。つまり、全員がそれぞれバラバラの目標に向かって動いてしまうリスクが高まるのです。
その結果、以下のような弊害が生まれます。
- 部署やチーム間での情報共有が遅れ、重複作業や手戻りが増える。
- 誤解や認識のズレによって、仕事の進行がスムーズにいかなくなる。
- メンバー間の信頼関係が薄れ、組織全体のエンゲージメントが低下する。
これらはすべて、企業の生産性やイノベーション創出に大きな悪影響を与えます。だからこそ、オフィスというリアルな場での「協働」を見直す動きが広がっているのです。
オフィス回帰が進む理由

コミュニケーションの質とスピードの向上
オフィス回帰が進む理由の一つは、対面でのコミュニケーションが業務の効率やチームワークの強化に寄与するためです。リモート環境では気軽な相談や雑談が減少し、信頼関係の構築や即時のフィードバックが難しくなります。その結果、チーム内の連携不足や誤解が発生しやすくなり、業務全体のパフォーマンスにも影響を与えます。
共同作業による業務効率の向上
オフィス勤務による共同作業は業務のスムーズ化を促し、特に製造業やクリエイティブ業界では、対面でのやり取りが成果に直結する場面が多くあります。クリエイティブ業界の企業では、オフィスでのブレインストーミングや対面レビューによってアイデアの質やスピードが改善され、プロジェクトの成功率が向上したという声も聞かれます。
組織文化とエンゲージメントの強化
オフィスでの交流は企業文化の浸透や社員のエンゲージメント向上にもつながります。特に新入社員にとっては、対面での助言やフィードバックを受けることで、早期のスキル習得や企業文化への理解が深まり、帰属意識が高まります。人材サービス会社の調査によると、テレワーク主体の企業は出社型の企業と比べて新入社員の離職率が約1.5倍高い傾向があるとされています。
セキュリティと労務管理のリスク軽減
情報漏えいや労働時間の管理も、オフィス回帰を促す大きな要因です。テレワークでは個人の端末やネット環境に依存するため、情報漏えいのリスクが高まります。労働時間の正確な把握も難しく、過重労働やサービス残業が発生する懸念も指摘されています。ある金融機関では、在宅勤務中に社外秘情報が流出した事案をきっかけに、出社日を増やす対策を取ることになりました。
オフィス回帰の本当の理由

こうした背景から、いま企業は「オフィス回帰」に舵を切り始めています。目的は、単なる「出社」による管理ではありません。オフィスという場を活用して、同時性コミュニケーションを増やし、チームで仕事を進める“団体戦”の意識を醸成することが求められています。特に、プロジェクト型の仕事や新規事業開発、イノベーションが求められる場面では、リアルなやり取りの重要性が再認識されています。
経営者・人事担当者が考えるべき対応策

オフィス回帰を進めるにあたって、経営者や人事担当者が取り組むべきことは大きく3つあります。
1. ハイブリッド型勤務の柔軟な設計
全社員に一律で出社を義務付けるのではなく、業務の特性や個人の事情を踏まえた柔軟な勤務体制を整えることが重要です。たとえば、企画や開発などの創造的な業務は出社を推奨し、ルーチン業務や集中作業はリモートでも支障がない場合は在宅勤務を認めるなど、ハイブリッド型勤務を戦略的に設計する必要があります。
2. オフィスの役割を再定義する
「なぜ出社するのか?」という目的を明確にしないまま出社を求めても、社員の納得は得られません。オフィスは単なる作業場ではなく、コミュニケーションやコラボレーションを促進し、イノベーションを生む場であることを示すべきです。例えば、プロジェクトごとの専用スペースやチーム単位でのミーティングルームを整備し、顔を合わせることの価値を高める工夫が求められます。
3. エンゲージメントと組織文化の醸成を意識する
出社を促すだけではなく、オフィスでの時間を「意味あるもの」にする仕組みが必要です。出社日には、社内勉強会やランチミーティング、チームビルディングの機会を設けることで、メンバー同士の交流を深め、組織文化の醸成を図ります。特に新入社員や中途入社社員には、オンボーディングプログラムを充実させ、リアルな場でのサポート体制を整えましょう。
4. 環境整備と福利厚生の見直し
オフィス回帰を促すためには、快適な職場環境の整備も欠かせません。働く場所としての魅力を高めるために、フリーアドレス席の導入、リラックススペースやカフェスペースの設置、集中作業用の個別ブースなど、社員のニーズに応えた空間づくりを行いましょう。また、交通費の補助やリモート勤務日とのバランスを考慮した福利厚生制度の見直しも重要です。
経営者や人事担当者がこうした施策を講じることで、単なる出社義務ではなく、「オフィスに行きたい」「行く意味がある」と社員が感じられる環境づくりが実現できます。
まとめ
リモートワークは個人の働きやすさや効率を高めましたが、組織としての協働力や創造性を再び強化するために、オフィスという“リアルな場”の価値が見直されています。
個人戦から団体戦へ。これが、いまオフィス回帰が進む大きな理由だといえるでしょう。一方で、単なる「出社強制」では逆効果になるリスクもあるため、経営者や人事担当者は、社員の働き方やモチベーションに配慮し、最適な勤務体制を模索することが求められています。