少子化はなぜ深刻な課題とされるのか――。近年、多くの対策が打ち出されているにもかかわらず、出生率の回復にはつながっていません。
異次元の少子化対策という言葉は注目されていましたよね。でもなかなか少子化対策の効果はみえていません。なぜ、人口は増えないのでしょうか?その理由と背景に迫りましょう。
本記事では、少子化の背後にある「無子人口」の増加に注目し、なぜ子どもを持ちたくても持てない人が増えているのか、その理由と背景を紐解いていきます。経営者や採用担当者にとっても他人事ではないこの問題。企業が未来の人材確保のために今できることも含めて、わかりやすく解説します。
人手不足はなぜ起きているのか?少子化の原因に迫る

人手不足の根底には何があるのでしょうか。少子化の進行によって労働人口が減少することは当然の結果といえますが、その背景にはより複雑な要因が潜んでいます。
単に子育てが大変だから、将来が不安だからといった理由では説明しきれない、「そもそもなぜ子どもが生まれないのか」「なぜ子どもを望んでも持てない人が増えているのか」という問題が根底に存在しているのです。
それは、結婚や交際といった家庭形成のスタート地点にすら立てない人が増えているという現実であり、無子人口の増加はその象徴とも言えます。このような構造的な課題を理解することが、少子化を企業リスクとして捉える第一歩となります。
少子化の本当の原因は「子どもを持ちたくても持てない人」が増えていること

少子化というと「子どもを持ちたくない人が増えたから」と考えがちですが、実際にはそうではありません。多くの人は、将来的に子どもを持ちたいという希望を持っています。しかし、その希望が実現できない現実が広がっているのです。
「無子人口」の増加が示す深刻な現実
その象徴的なデータが「無子人口」です。これは一度も子どもを持たずに生涯を終える人の割合を示すもので、日本ではその比率が急増しています。特に女性の場合、44歳時点で無子である割合は約28%にのぼり、世界的に見ても非常に高い水準です。
多くは“意図的”ではない無子状態
しかも重要なのは、この無子人口の多くが“意図的”ではないということです。つまり「子どもはいらない」と決めたのではなく、「欲しかったが、持てなかった」人が圧倒的多数なのです。
背景にある複合的な障壁
その背景には、適切なパートナーとの出会いの困難さ、経済的不安、不妊の問題など、複数の障壁が存在しています。希望するライフコースを選べないという現状は、単なる個人の問題ではなく、社会が取り組むべき深刻な課題と言えるでしょう。
希望と現実のギャップが生む少子化
少子化の本質とは、出生率の数字だけではなく、「人々の希望と現実のギャップ」が広がっていることにあるのです。
日本は世界でも際立って高い無子割合
少子化の根本原因は「期待している子供数を持てない人が増えている」ことにあります。とりわけ、日本は「無子人口」の割合が高く、44歳時点で見ると約28%にのぼり、スペインやフィンランドを大きく上回りしています。
なぜ子どもを持てない人が増えているのか?未婚率と無子割合の関係

未婚率の上昇は、無子人口の増加に直結しています。特に日本では、婚外子の割合がわずか3%程度と低く、結婚しなければ子どもを持つことが難しい社会構造があります。そのため、未婚であることはそのまま「無子」であることを意味する場合が多く、少子化を語る上で未婚率の上昇は重要な指標になります。
急増する未婚率の背景とは?
1950年には2%前後だった生涯未婚率は、2020年には男性28%、女性18%まで上昇しています。これは単に「結婚しない人が増えた」というより、「結婚できない人が増えている」と解釈すべき現象です。背景には、長時間労働や職場環境の問題、経済的な不安定さ、地域の出会いの少なさなど、さまざまな要因が絡んでいます。
結婚しても無子のケースが増加
さらに、結婚後であっても子どもを持たない人が増えていることにも注目すべきです。国立社会保障・人口問題研究所の調査によると、既婚者であっても子どもを持たない割合は、1980年代の約3.5%から近年では10%近くにまで増加しています。つまり、未婚だけでなく既婚者の中でも無子が進んでいるのです。
増加する「望んでも持てない」無子人口
このように、「未婚である」「結婚しても子どもを持たない」という2つの流れが、無子人口の増加を加速させています。そしてその多くは、意図的な選択ではなく、「持ちたいけど持てなかった」層です。人々の意志とは裏腹に、社会的・経済的要因によって人生の選択肢が制限されている現実が、少子化の深刻さを物語っています。
パートナーと出会えない現実
大きな要因は「適切なパートナーと出会えない」ことです。1950年には2%だった未婚率が2020年には男性28%、女性18%と大きく上昇しています。それに伴って無子割合も増加しています。無子人口の7割以上が、子どもを望みながらも未婚、あるいは結婚していても子どもを持てない現実に直面しているのです。
子育て支援だけでは不十分?少子化対策が届かない本当の理由

日本の少子化対策は一見、充実しているように見えるかもしれません。実際、育児休業制度や保育施設の整備、児童手当など、さまざまな施策が国・地方自治体を通じて展開されています。しかし、その多くが「すでに子どもがいる世帯」への支援に偏っており、「これから子どもを持ちたい」と考えている人々に向けた支援は、ほとんど手が届いていないのが現実です。
無子人口への支援が欠如している現状
2022年度の少子化対策予算のうち、約99%が子育て支援策に充てられていました。これは裏を返せば、「無子」の状態にある人たち、つまり未婚者や子どもを持たない既婚者に対しては、支援がほぼ届いていないことを意味します。希望しても子どもを持てない人が増えているという現状を踏まえると、少子化対策としては明らかにバランスを欠いていると言わざるを得ません。
結婚・出会い支援の壁と限界
恋愛・結婚支援に関しては、価値観やプライバシーに深く関わる領域であるため、政策として踏み込みにくいという側面があります。その結果、婚活イベントやマッチング事業など、限定的なアプローチにとどまり、根本的な支援策にはなりきれていないのです。
本当に必要なのは「子どもが生まれる前」の支援
本当に必要なのは、「子どもがほしい」と願う人が、その思いを叶えられる環境を整えることです。そのためには、子育て支援の強化と並行して、出会いや結婚、そして妊娠・出産に至るまでの一連の過程を社会として支える仕組みづくりが不可欠です。
少子化対策を「子どもが生まれてから」の支援にとどめず、「生まれる前の支援」にまで視野を広げていくこと。それが、今後の政策に求められる方向性ではないでしょうか。
少子化対策が届かない原因は「情報が伝わっていない」こと

少子化対策は実施されていても、その存在自体が必要な人に知られていなければ、効果は発揮されません。日本では、国・都道府県・市区町村の三層構造でさまざまな少子化対策が講じられていますが、実際にそれを知っている人は多くありません。
データが示す制度の認知不足
たとえば、2021年に中国社会科学院とシンガポール国立大学の研究チームが発表した論文では、「日本の回答者の83%が、17種類ある家族手当のうち5つ以下しか知らなかった」という結果が示されました。これは、制度が存在していても、その情報が十分に届いていない現状を端的に表しています。
情報源が偏っている
筆者が関わった福井県や佐賀市の調査でも、同様の傾向が見られました。子育て支援の情報を得た手段として最も多かったのは「家族・親族」や「友人・知人」であり、次いで「自治体が発行する紙のリーフレットや窓口」。一方で、行政のホームページやSNSを情報源として活用している人は少数にとどまりました。
デジタル広報の工夫が不可欠
つまり、インターネットを活用した情報発信が効果的に機能しておらず、肝心の支援情報が“口コミ頼み”になっているのです。特に子どもをまだ持っていない層や若年層にとって、わかりやすく・タイムリーに届く情報設計が不可欠です。
短期・中長期で考える情報発信の改善
短期的な対策としては、人が多く集まる商業施設や駅、公民館、保健センターなどに、各自治体の支援策をまとめたガイドブックやパンフレットを常設することが有効です。
中長期的には、行政のウェブサイトやSNSの発信力を高めることが求められます。ただ掲載するだけでなく、「見てもらうための工夫」——たとえば動画、マンガ、ストーリー形式の投稿、LINEなどの活用が鍵を握ります。
「知られていない」は「ない」に等しい
どれだけ制度を整えても、それが“知られていなければ存在しないのと同じ”。少子化対策の第一歩は、「知ってもらうこと」から始まります。
少子化対策は実施されていても、その存在自体が必要な人に知られていなければ、効果は発揮されません。日本では、国・都道府県・市区町村の三層構造でさまざまな少子化対策が講じられていますが、実際にそれを知っている人は多くありません。
若者の経済格差が少子化の一因に?交際・結婚できない理由とは

経済的に不安定な若者ほど、交際や結婚に至りにくいという現実があります。特に非正規雇用の若年層は、将来の見通しが立てづらく、パートナーとの生活や子育てを計画することが困難です。
実際、厚生労働省の調査でも「正社員でないこと」が結婚に踏み切れない大きな理由のひとつとして挙げられています。
男性の収入と結婚の関係
また、男性の経済力が交際や結婚に影響するという社会的な期待も根強く残っています。所得が低い男性ほど、恋愛や結婚への自己評価が低くなる傾向があるという調査結果もあります。そのため、収入の少ない層では、そもそも恋愛関係を築くスタートラインに立ちづらいという課題があります。
経済格差がもたらす連鎖的な影響
このような経済格差が、交際→結婚→出産というライフステージの流れに影を落とし、最終的には子どもを持つ機会そのものを奪っているといえます。結果として、希望していても子どもを持てない人が増えてしまうのです。
解決に向けた支援の方向性
逆に言えば、若者の雇用環境を安定させ、経済的自立を支援することが、少子化の解決策のひとつになるでしょう。たとえば、次のような支援が考えられます:
- 若年層への職業訓練の充実
- 正規雇用の拡大
- 住宅手当や奨学金返済支援の制度化
「子育て支援」だけではなく「土台づくり」も重要
少子化対策は単に子育て支援の話ではありません。「結婚以前の生活基盤をいかに整えるか」という、もっと根本的な社会構造の課題として捉える必要があります。
企業ができる少子化対策とは?若者支援が未来の人材確保につながる

少子化が進む中で、企業は「待ち」の姿勢ではいられません。人口が減り続ければ、採用競争はますます激しくなり、人材確保が企業経営の最大の課題になるのは間違いありません。今後の持続的な成長のためには、企業自らが地域社会や若者に対する支援を積極的に行っていく必要があります。
たとえば、以下のような取り組みが挙げられます:
- 地域に開かれた職場づくり(職場見学やインターンの受け入れ)
- 若手社員のキャリア支援や働きやすい制度の導入(柔軟な勤務体制、メンター制度など)
- 福利厚生としての結婚・出産・育児に関する支援(住宅手当、育児支援手当、育休取得促進)
- 学生向けの奨学金返済支援や入社後の学び直し支援(リスキリング)
また、地域の教育機関や自治体と連携して、若者のキャリア形成をサポートする仕組みづくりにも貢献できます。中小企業であっても、「地元で働き、暮らし、家族を持てる未来」を具体的に描ける環境を提供することで、結果として優秀な人材を惹きつけ、定着につながります。
つまり、企業が若者の生活基盤を支える存在となることは、社会貢献であると同時に、自社の人材戦略でもあるのです。
よくある質問(Q&A)
Q. 中小企業でも少子化対策に取り組む意味はありますか?
A. あります。人口減少によって地方ほど人材確保が難しくなっていくため、地域密着型の中小企業こそ、若者支援を通じた人材戦略が有効です。
Q. 具体的に何から始めればよいですか?
A. まずは職場見学の受け入れや、地元の高校・大学との関係構築など、小さなアクションから始めるのがおすすめです。地域との接点を持つことが第一歩です。
Q. 企業が奨学金返済支援を行うメリットは?
A. 若者にとって経済的負担が軽減されることは大きな魅力です。採用時の差別化につながり、長期定着にも効果が期待できます。
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