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有給休暇を“取らせる”時代へ:経営者が知るべき休み方改革の本質

有給休暇の取得は、従業員の健康と働きやすさに直結するにもかかわらず、日本では依然として「取りづらい」空気が根強く残っています。

採用コンサルタント:大岩

有給を使う時は会社を辞める時。ひと昔前まではそんな風に考えている人も多かったのではないでしょうか。でも、今は有給を取得するのは当たり前になってきています。

本記事では、法改正の背景や最新データ、さらには海外の研究知見をもとに、企業が取り組むべき“休み方改革”の要点を解説します。休暇は単なるコストではなく、生産性を高める投資です。その本質を今一度見直してみましょう。

なぜ日本では有給休暇が取りづらいのか?

「日本人は休み下手」。大型連休の時期になると、こんな言葉を耳にすることがあります。実際に海外からそう見られているかは定かではありませんが、多くの人が連想するのは、渋滞や混雑で疲弊しながら短い休みを過ごし、また職場に戻る日本人の姿かもしれません。

欧州の人々が数週間単位でバカンスを楽しむ様子を目にすると、「うらやましい」と感じる方も多いのではないでしょうか。一方で、日本では有給休暇という本来の権利すら思うように使えず、気づけば年末にまとめて消化するようなケースも少なくありません。そのたびに「もっと早く休んでおけばよかった」と感じる人もいるはずです。

有給休暇取得率が日本で低迷する理由

日本政府は長年にわたり、有給休暇の取得促進を掲げてきました。しかし、バブル崩壊以降の30年間、有休取得率は低迷を続けました。その流れを変えようと2018年に労働基準法が改正され、年5日分の有休については使用者が時季を指定して取得させる義務が課されました。

一見すると、いつ休むかを会社に決められるのは労働者にとって不利益に思えます。しかし、現実には「周囲に迷惑をかけたくない」「みんなが休まないから自分も取りにくい」といった心理的ハードルが根強く、休みたくても休めない状況がありました。そのため、あえて使用者が休ませることで“休むことが当たり前”という文化づくりが進められたのです。

法改正による有給休暇取得率の変化とは?

2019年から施行された改正労働基準法により、企業には年5日分の有給休暇を時季指定して取得させる義務が課されました。この法改正が実際に有給休暇取得率にどのような影響を与えたのか、データからその変化を読み解いてみましょう。

総務省の社会生活基本調査によると、2011年、2016年と続いていた「0~5日しか取得しない」層が、2021年には明らかに減少しています。代わって「6~10日取得」する人が増加しており、これは法改正によって最低5日間は取得しなければならなくなった影響と見られます。

ただし、有給休暇を11日以上取得する人は依然として少数派であり、年間20日近く付与されている実態を考えると、依然として十分に活用されているとは言い難い状況です。つまり、「最低限は取得させられるようになった」ものの、それ以上は依然として自主性に委ねられており、そこで取得に差が生まれているのです。

有給休暇を取得できない社員の特徴と背景

2021年の同調査によれば、週の労働時間が長い人ほど有給休暇の取得が少ない傾向が顕著に現れています。特に週60時間以上働く従業員では、約4割が年5日以下の取得にとどまり、1割弱は1日も休んでいないという深刻な実態があります。

こうした人々は「忙しすぎて休めない」「休むと周囲に迷惑をかける」といった心理的・業務的な壁に直面しています。また、役職者や責任の重いポジションにいる人ほど「自分が抜けると回らない」という思い込みに縛られがちです。

さらに、家庭と仕事の両立に悩むワーキングペアレントなども、育児や介護による“時間のやりくり”の結果、計画的に有休を取るのが難しいケースがあります。

つまり、取得率の平均値だけでは実態を見誤ります。企業としては、勤怠データやストレスチェック、人事面談などの情報をもとに「本当に休むべき人は誰か?」を見極める必要があります。そして、個別に声をかけたり、業務分担を再構成するなどの丁寧な対応が求められるのです。

休暇が心と体を整え、生産性を高める理由

近年、休暇がもたらす効果についての研究が進んでいます。2025年に米ジョージア大学の研究チームが発表したメタ分析では、9カ国・32本の研究を集約し、休暇とウェルビーイングの関係を分析しました。

その結果、休暇は想定以上に労働者の心身をリフレッシュさせることがわかりました。特に以下の3点が明らかになっています:

  1. 休暇後の幸福感は1ヶ月以上持続する
  2. 長期休暇ほど戻った時のギャップが大きい(=急速に元の状態へ)
  3. 短期休暇でもディタッチメント(仕事との物理的・心理的距離)を意識すれば効果がある

この“仕事からしっかり離れること”こそが、現代の「休み方改革」のカギだと言えるでしょう。

有給休暇取得を促進する企業の取り組み方

有給休暇の取得率をただの数値目標として追いかけるのではなく、「誰が、どれくらい、どのように休めているか」という中身に目を向けることが重要です。形式的に日数だけを埋めるのではなく、心身をリフレッシュできるような“質の高い休み”を設計する視点が求められます。

特に見落とされがちなのが、部署や職種ごとに異なる取得のしやすさです。現場職やマネジメント層などは「自分が抜けたら業務が回らない」と考えがちで、結果として取得に偏りが出やすくなります。また、繁忙期の偏在を考慮せずに画一的な取得推進をしても、逆効果になることもあります。

企業として取り組むべきポイントは以下のとおりです:

  • 勤務間インターバル制度の導入:1日の労働と次の出勤までの休息時間をしっかり確保
  • 最低週1日以上の休暇を義務づける仕組み:特に長時間労働者を対象に
  • 有休取得の実績をチーム単位で見える化:取得しにくい職場環境の改善につなげる
  • 短期連休やリフレッシュ休暇の制度化:数日間の連休でも“仕事から離れる”効果を得やすい

これらの取り組みに共通するのは、“休むことに後ろめたさを感じさせない”環境づくりです。管理職自身が積極的に休暇を取り、部下にも声をかけることで、休みやすい空気が職場に広がります。

有給休暇制度の“使われにくさ”をどう解消するか

日本では有給休暇に“時効”があることをご存じでしょうか? 有休は2年で時効を迎え、未消化分は自動的に消滅してしまいます。つまり、制度上は権利があっても、使わなければなかったことにされてしまうのです。

この仕組みは、従業員にとっても企業にとっても“もったいない”状態です。本来、働き方改革の一環として推進されるべき有休が、制度的には十分に活用されていないのが現状です。

こうした問題を解決するには、以下のような新たな制度の導入・改善が有効です:

  • 未消化有休の企業買い上げ制度(一定の割増率をつけて)
  • 法定病気休暇の創設(急な体調不良に備え、有休とは別に年5日程度)

これらの制度により、従業員が「休んでおく」という備えを有休でまかなう必要がなくなり、計画的に休暇を取得しやすくなる可能性があります。

まとめ:有給休暇を経営資源と捉える視点を

休暇は従業員の心身を整え、持続的なパフォーマンスを支える投資です。とくに中小企業においては「誰かが休むと業務が回らない」と感じるかもしれませんが、休めないことで本当に失っているのは、生産性と健康です。

有給休暇を単なる“福利厚生”として捉えるのではなく、“生産性の維持・向上”や“離職防止策”として経営戦略に組み込むことが大切です。従業員が安心して休める職場は、結果的にエンゲージメントや職場満足度も高まり、優秀な人材の定着にもつながります。

「休ませること」は“甘やかし”ではなく、持続可能な経営に向けた合理的な判断です。企業の成長を支えるのは、疲弊した人材ではなく、健康で前向きな人材です。まずは、自社の有休取得状況を見直すことから始めてみましょう。

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ABOUT ME
採用人事コンサルタント 大岩貴文
大手メディアの求人広告営業を10年経験した後、経営コンサルタント唯一の国家資格である中小企業診断士の資格を取得。採用人事に強いコンサルタントとして、採用支援、研修講師、経営改善などを中心に活動中。経済産業省認定経営革新等支援機関、福岡県商工会連合会エキスパートバンク登録専門家。

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