ここ数年、賃上げの話題を見ない日はないくらいになりました。
採用難や物価上昇も重なり、「うちもベースアップを考えた方がいいのではないか」と感じている経営者も多いと思います。

ただ、ベースアップは単に給与を上げればよいという話ではありません。
採用や定着にプラスに働く面がある一方で、固定費が増える、将来の人件費負担が重くなる、一度上げると下げにくいといったデメリットもあります。実際、帝国データバンクの2026年度調査では、賃上げを見込む企業は63.5%、ベースアップ実施予定は58.3%にのぼる一方、賃上げを行わない理由のトップは「自社の業績低迷」55.1%でした。つまり、賃上げの必要性は感じていても、負担の重さに悩む企業が少なくないということです。

そこで今回は、ベースアップのデメリットを整理したうえで、中小企業が賃上げ前に何を確認しておきたいかをお伝えします。

ベースアップのデメリットとは何か

結論からいうと、ベースアップの最大のデメリットは、人件費が一時的ではなく恒常的に増えることです。

賞与や一時金の増額であれば、その年だけの対応にとどめることもできます。
一方で、ベースアップは基本給そのものを引き上げるため、毎月の給与だけでなく、残業単価、賞与、社会保険料などにも影響しやすくなります。帝国データバンクの2026年度調査でも、総人件費は平均4.51%増、中小企業の従業員給与は平均4.53%増と試算されており、賃上げの負担はかなり重くなっています。

さらに、ベースアップは一度上げると下げにくいのも大きな特徴です。
会社の業績が厳しくなったからといって、簡単に基本給を戻すのは現実的ではありません。だからこそ、短期的な採用対策として勢いで決めるより、長く続けられるかを見ながら判断する必要があります。

それでもベースアップが議論される理由

それでもベースアップが議論されるのは、採用・定着の観点から無視しにくいからです。

帝国データバンクの2026年度調査では、賃上げの理由として最も多かったのは「労働力の定着・確保」74.3%でした。つまり、多くの企業が賃上げを福利厚生ではなく、人材確保策として見ています。最低賃金改定への対応を理由に挙げる企業も29.2%と過去最高でした。

また、2025年春闘では、中小企業の賃上げ率は4.35%、100人未満企業でも3.78%でした。大手ほどではないにしても、全体として賃上げ基調が続いており、「うちは賃上げしない」で通しにくい環境になっています。

つまり、ベースアップは負担がある一方で、採用市場の中では無視しにくいテーマになっているということです。

中小企業がベースアップ前に整理したい3つのこと

ベースアップを考える前に、少なくとも次の3つは整理しておきたいところです。

1. 利益構造と価格転嫁が追いついているか

まず確認したいのは、人件費増を吸収できる利益構造があるかです。

ベースアップは、毎月発生する固定費を増やします。
売上が伸びても利益が残りにくい構造のまま基本給を上げると、後から苦しくなりやすくなります。特に中小企業では、価格転嫁が十分にできていないと、人件費だけが先に膨らむ形になりがちです。

そのため、「いくら上げるか」の前に、

  • どのくらい利益が残っているか
  • 今後も継続できるか
  • 価格改定や生産性向上で吸収できるか
    を見ておく必要があります。

2. 賃上げの目的が明確か

次に大事なのが、何のために賃上げするのかを明確にすることです。

採用競争力を高めたいのか、離職を防ぎたいのか、物価上昇への対応なのか。目的が曖昧だと、ベースアップの金額や対象者も決めにくくなります。

たとえば、採用競争力を高めたいなら、基本給だけでなく、求人票や採用広報でどう見せるかも大切です。
離職防止が目的なら、給与だけでなく、評価制度や働き方も含めて見直した方が効果が出る場合があります。

3. 評価制度や人件費バランスは整っているか

ベースアップは、全体の人件費バランスにも影響します。

一律に基本給を上げると、既存社員とのバランス、役職者とのバランス、評価との差が見えにくくなることがあります。
とくに、「成果を出している人もそうでない人も同じように上がる」状態が続くと、納得感が下がりやすくなります。

そのため、ベースアップを検討するときは、

  • 昇給ルール
  • 手当の考え方
  • 評価との連動
    まで見ておく方が安全です。

ベースアップ以外に見直したいこと

ベースアップをしない、または大きくできない場合でも、採用競争力を高める方法はあります。

手当や賞与の設計

基本給を大きく動かしにくい場合は、手当や賞与で調整する考え方もあります。
一時的な負担にとどめやすいので、固定費を急に増やしすぎないという意味では検討しやすいです。

働き方や制度の見直し

採用では、給与だけでなく、休日、残業、柔軟な働き方、休みやすさなども見られています。
給与競争にそのまま乗れない会社ほど、働きやすさや職場環境の見直しは重要になります。

採用広報や職場環境の整備

求職者は、賃金だけでなく「どんな仕事か」「どんな人が働いているか」「安心して続けられそうか」も見ています。
ベースアップだけで差をつけるのが難しいなら、採用広報の精度を上げる、受け入れ体制を整えるといった方向も現実的です。

中小企業がベースアップを判断するときの考え方

ベースアップを判断するときは、採用・定着・財務の3つをセットで見ることが大切です。

賃上げだけを見れば、確かに魅力は上がります。
ただし、続けられない賃上げは、後で会社を苦しくします。逆に、金額は大きくなくても、目的が明確で、他の制度や環境整備と組み合わせていれば、採用や定着にプラスに働くこともあります。

中小企業では、大手と同じような賃上げ競争をそのまま追うのではなく、

  • どこまでなら無理なく続けられるか
  • 何を優先して改善するか
  • ベースアップ以外で補える部分はないか
    を整理したうえで判断した方が現実的です。

まとめ

ベースアップには、採用や定着の面で期待できる効果があります。
実際に、2026年度に賃上げを見込む企業は63.5%、ベースアップ実施予定は58.3%と高水準で、理由のトップは「労働力の定着・確保」でした。

一方で、ベースアップのデメリットは、固定費が恒常的に増えることです。
一度上げると下げにくく、利益構造や価格転嫁が追いついていない会社ほど、後から負担が重くなりやすいです。2025年春闘でも、中小企業の賃上げ率は4.35%、100人未満企業でも3.78%まで上がっており、賃上げ圧力は確かに強まっています。

だからこそ、ベースアップは「世の中がそうだから」で決めるのではなく、目的、利益構造、人件費バランスを整理したうえで判断することが大切です。

採用活動は、試行錯誤しながら進めている会社も多いと思います。今回の内容が、少しでも整理の参考になれば嬉しいです。

FAQ

ベースアップと定期昇給の違いは何ですか?

ベースアップは基本給そのものを引き上げることです。定期昇給は、勤続年数や評価に応じて個別に賃金が上がる仕組みを指します。帝国データバンクの調査でも、賃金改善はベースアップや賞与増によるものとされ、定期昇給とは分けて扱われています。

ベースアップのデメリットは何ですか?

固定費が恒常的に増えること、一度上げると下げにくいこと、将来の人件費負担が重くなりやすいことが主なデメリットです。

中小企業でもベースアップは必要ですか?

必要かどうかは一律ではありません。採用・定着の観点では有効な場合がありますが、利益構造や価格転嫁、人件費バランスも見ながら判断する必要があります。

ベースアップ以外に採用競争力を高める方法はありますか?

あります。手当や賞与の見直し、働き方や制度の改善、採用広報の見直し、職場環境の整備なども有効です。

ABOUT ME
採用人事コンサルタント 大岩貴文
求人広告の営業として10年間、中小企業の採用現場を見続けてきました。「採用の問題は、経営の問題」と確信し、中小企業診断士(経営コンサルタント唯一の国家資格)を取得。今は採用戦略・人材育成・経営改善を手がけるコンサルタントとして活動しています。「いい人が来ない」「採っても辞めてしまう」——そんなお悩み、ぜひご相談ください。経済産業省認定経営革新等支援機関 / 中小企業基盤整備機構経営アドバイザー