「スキルよりも態度を見て採用すべき」という考え方があります。これは、仕事の成果を左右するのは知識や経験よりも、その人の意欲や周囲との関わり方だという視点を表しています。実際、多くの企業が今、応募者の人柄や協調性を重視した採用にシフトしつつあります。
この“態度”というのが、近年注目されている「非認知能力」のことです。変化の激しい今の時代、目に見えるスキルだけでなく、その人の姿勢や対人力といった“見えにくい力”がますます重要視されています。
この記事では、採用実務の視点から「非認知能力」とは何か、そしてなぜ今、企業がこの能力に注目すべきなのかを解説します。
非認知能力とは何か?定義と具体例

非認知能力とは、学力テストで測れるような「読み書き・計算・記憶力」といった認知スキルとは異なり、人間の行動や態度、感情のコントロールに関わる能力を指します。
具体例:
- モチベーションを維持する力
- 他人と協力する姿勢(協調性)
- 失敗から学ぶ粘り強さ(レジリエンス)
- 感情を読み取る共感力
- 自分を律する自己管理能力
非認知能力は、子どもの教育分野で特に注目されてきましたが、近年はビジネスの現場でも「成果を出す社員」の特徴として見直されつつあります。
なぜ今、非認知能力が注目されているのか?

理由のひとつは、AIやロボット技術の進化です。かつて人間にしかできないと思われていた知的作業の多くが、テクノロジーによって代替可能になりつつあります。
たとえば、情報収集や計算、文章作成といった“認知的”な作業は、生成AIが短時間で処理できるようになりました。一方で、相手の気持ちを汲み取る、チームで協力して問題を解決するといった“人間らしい”働き方は、まだAIには難しい領域です。
また、コロナ禍以降、リモートワークやフレキシブルな働き方が広がり、従業員の自己管理能力やコミュニケーション能力が一層問われるようになりました。こうした変化のなかで、自律的に働ける人材、協調性を持って周囲と連携できる人材の価値が高まっています。
さらに、企業が持続的な成長を目指すうえでは、単に「指示通りに動く人材」ではなく、問題を自ら見つけて行動できる人が求められるようになっています。非認知能力は、そうした“考えて動ける人材”を見極める上での重要な指標です。
このような背景から、「AIにはできない価値」を持つ人材として、非認知能力に優れた人が求められているのです。
採用実務にどう活かす?非認知能力の見極め方

非認知能力は履歴書や職務経歴書だけではわかりにくく、選考で判断するのは難しいと感じる方も多いでしょう。 しかし、いくつかの工夫で、その人の考え方や働き方の姿勢を見抜くことができます。
面接では「過去の経験」を深掘りする
「どんな状況で、何に取り組み、どう考え、どう行動したか」を具体的に聞き出すことで、その人の粘り強さや協調性が見えてきます。 これは「STAR法(Situation, Task, Action, Result)」という方法で整理して話してもらうと効果的です。
シチュエーション型の質問を活用する
たとえば、「納期に間に合わなそうだと気づいたとき、どう対応しますか?」といった想定質問をすることで、 その人の判断力や責任感、他者との調整力を探ることができます。
適性検査の併用も有効
最近では、簡易な性格診断や適性検査を用いて、対人傾向やストレス耐性などを確認する企業も増えています。 あくまでも補助的なツールではありますが、面接だけでは見えない一面を知る手がかりになります。
判断のポイントは「姿勢」と「行動パターン」
学歴や経験だけで判断せず、「この人は素直に学べるか?」「困難にどう向き合うか?」といった視点を持つことで、 将来伸びる人材に出会える確率が高まります。
非認知能力を意識した採用ができれば、ポテンシャルの高い人材を早期に見つけ、組織の成長に貢献してもらうことが可能になります。
採用後の育成がカギ:職場で非認知能力を伸ばす工夫

非認知能力は「生まれつきの資質」ではありません。仕事の中で磨かれるスキルです。
たとえば、
- OJTや1on1ミーティングでの対話を通じた内省の機会
- 心理的安全性の高い職場での意見交換
- 挑戦と失敗を許容する文化
こうした環境が、社員の自律性や協調性、レジリエンスといった非認知能力を育みます。
特に若手社員や中途入社者に対しては、「正解を教える」のではなく「考えるプロセスを支援する」スタンスが求められます。
これからの時代に求められる「人材像」とは

非認知能力が高い人材は、変化に柔軟に対応し、自ら課題を発見して行動できます。いわば「環境に依存しない、自走できる人材」です。
こうした人材を見極めるためには、採用基準の見直しが必要です。
- スキル要件だけでなく、行動特性や価値観に注目
- 書類選考では見えない要素を、面接や評価ツールで補う
- 採用後の育成も含めた「長期視点」での人材戦略を立てる
私自身の経験から思うこと

私は現在、中小企業診断士という経営コンサルタントの国家資格をベースに仕事をしています。 実は、私は高学歴ではありません。しかし、自分では「非認知能力」に恵まれていたからこそ、ここまでやってこられたと感じています。
中小企業診断士の資格を取得するまでには9年かかりましたし、会社員時代は営業職でしたが、最初の頃はまったく売れずに苦しみました。 それでも、粘り強く取り組み続けた結果、最終的にはトップ営業として成果を出すことができました。
だからこそ、「スキルではなく態度で採用する」という考え方には深く共感しています。 ただし同時に、それがとても難しく、リスクを伴うことも知っています。
目に見えるスキルがあれば安心できますし、実務経験がある人を採用したくなるのは当然の心理です。 でも、未経験者であっても、素直に学び、教えられたことを実行できる人の方が結果を出すことがある。
私自身がそうだったように、非認知能力は確かに人の可能性を広げる力です。 だからこそ、採用現場でもその“見えない力”にもっと目を向けてほしいと思っています。
まとめ:非認知能力を重視することが採用成功の近道
AI時代の人材採用において、非認知能力は“見えないけれど見逃せない力”です。
スキルは後からでも身につけられますが、仕事への姿勢や人との関わり方は、採用段階で見極めが必要です。特に、企業文化へのフィット感やチームでの協調性、困難な状況でも粘り強く行動できるかどうかといった要素は、入社後の活躍に大きく影響します。
また、非認知能力は「一度見極めて終わり」ではありません。入社後の育成・支援によってさらに伸ばすことができるため、採用と育成をつなげた人材戦略が求められます。採用時点ではポテンシャルを見極め、配属後は対話や評価制度を通じて能力を引き出していくことが重要です。
これからの時代を生き抜く企業にとって、非認知能力を重視した採用こそが、変化への対応力を持つ組織づくりの第一歩になるでしょう。
よくある質問(Q&A)
Q1. 非認知能力は履歴書で判断できますか?
難しいです。履歴書では経歴や資格などの認知スキルしか判断できないため、面接や適性検査などを組み合わせて確認しましょう。
Q2. 非認知能力が高い人材はどのように見極めればいいですか?
行動面接(STAR法)やシチュエーション型質問が効果的です。過去の具体的な経験から、その人の価値観や行動傾向を探ることができます。
Q3. 社内で非認知能力を育てるにはどうすればよいですか?
OJTや1on1ミーティング、フィードバック文化の醸成がカギです。挑戦を歓迎し、心理的安全性を高める環境が育成の土壌となります。
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